おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

7月2日 為政者の言葉  (第1275回)

拙宅は上野公園の北にあり、パンダの近所です。このあたりは鉄道の高架がほとんどなく、山手線、京浜東北線高崎線宇都宮線常磐線、私鉄では京成、雪国へ向かう新幹線の出入り口が横に並んで壮観です。一部は拙宅のバルコニーから直接見える。

このため、朝はこれらの電車や目の前の大通りを走り始める大型車の音か、持病の腰痛のいずれかで目が覚める。冬はまだ暗い内から、明るい電車内に少なからずの人が座っているのが見える。東京の北側や関東各地、特に埼玉や千葉から通勤・通学をしている人たちだ。誰がうるさいなどと言えよう。おかげで早寝早起きになりました。


以下は先回の続きで、心無い言葉を吐いた知事がいたという嫌な話の続きです。その前にフランス革命の話題を出す。高校生のとき興味を抱き、一般向けの本を何冊か読みました。フランス革命は、その後に反動があったにせよ、それまでの血筋や武力で権力を濫用してきた世界を変え、ひたすら議論により、万機公論に決すべしという議会制民主主義の生みの親です。

ところが今の日本やアメリカや中国は、民主主義が嫌いで国民が邪魔らしく、アンシャン・レジームそのもの。この暗い国際情勢を踏まえ、特に人文社会の領域において、近年とみに右傾化が激しいWikipediaで「フランス革命」をみると、「資本主義」という言葉のオン・オンパレード。身を立て名を挙げるには、言論よりお金の時代です。



今日は去る7月2日の出来事が中心ですが、このあとも兵庫県知事の井戸敏三君は、すぐに口頭で取り消したそうですが「諸悪の根源は東京」と記者会見で語り、お膝元の神戸新聞にまで、取り消せない記事を書かれてしまった。Forget you not.

とはいえ最初に申し添えておくべきは、知事さん大変です。感染症法も特措法も、都道府県知事に責任と権限を委譲している部分がかなりあります。こんな未知の感染症対策をしなければならず、長期化しているし、しかも、なかなか国とスタンスが合わない。保健所や消防は市区町村ごとにありますから、こちらの首長さん方も大忙しです。加えて豪雨災害。


7月2日、埼玉県知事の大野元裕君が、新規の陽性患者は「東京由来」の疑いが強い旨の発言をし、しかもこちらは取り消していないと思う。私がこのニュースを最初に読んだのは、日テレのニュース記事で、これだけ聞くとわれら都民が病原体であるかのごとしです。

この記事も最後まで読めば、埼玉県民への注意勧告でもあり、一方的に東京を責めているものではないのですが、こういう小泉以来のワン・フレーズは、マスコミ経由で独り歩きしやすいことぐらい、二人とも知事にもなって分からない。さらに埼玉県から東京に通勤している人たちが、窮屈な思いをしないだろうかなんて考えもしない。


本件は上掲記事にもあるように、通常の記者会見ではなく、県の専門家会議の席上で述べられたものであるらしい。議事録は別途、残っているから、国より立派です。

ちと長いですが、真ん中あたりに「私どもとしても、東京由来のものが多かったり、あるいは埼玉県内でも、クラスターが夜の街で発生してるということに鑑み、しっかりとした対応をしていきましょう」と都知事に話したと記録にある。


上述のような通勤電車が典型ですが、埼玉、千葉、神奈川、東京の人の往来は、電車の乗り入れや延長、ライナーの導入などで相変わらず盛んですし、そもそも街並みが繋がっているため、どこが他県と都との境かもよく分からない。運命共同体です。喧嘩している場合ではない。

では、そう言われた側のわが都知事小池百合子君は何と語ったか。同日の夕方に記者会見を開いている。時期的には、しばらく二桁だった新規報告が、三桁に戻った。このため各知事も、報道関係者も言葉の選び方が、きつくなっている。議事録があります。


両知事の発言にあるように、このころから「夜の街」が典型的なクラスター源とみなされるようになりました。東京が諸悪の根源なら、その代表者とでも言わんばかりの表現です。みんな人のせいにしたいのだな。「夜の街」は確かに三密的なイメージはあります。陽性率も高いと報道されています。

しかし、想像の域を出ませんけれども、狭い世界で暮らしていそうな夜の街の住民がウイルスを拡げたというより、昼の街で働いている人たちが夜、持ち込みで密接に集まるから、集団感染が始まったと考えた方が自分は納得がいきます。「夜の街」がコウモリか何かから感染したのではありません。


もうひとつ、この会見では何故か「東京アラート」のカラーだった赤を改め、緑のプラカードで例の「感染拡大 要警戒」がお披露目となった。ゴロが良いなどと喜んでいる粗忽者もいるが、単なる七五調の字余りに過ぎず、それよりこれまでと比べ、追加で何をしろと言いたいのか、さっぱり理解できない。


東京都の職員(地方公務員)は、何年か前に仕事でご一緒させていただいたことがあり、驚くほどに優秀で礼儀正しい方々でした。当時すでに何かと話題を振りまいていた築地移転と2020東京オリパラでご多忙の様子でしたが、今はさらに繁忙の限りでありましょう。しかもこの三日後に知事選があった...。

7月2日は、中央政府も話題を提供しました。経済再生担当大臣の西村康稔君が、なぜか色をなして「もう誰もああいう緊急事態宣言とか、やりたくないですよ。休業もみんなで休業をやりたくないでしょ。これ、みんなが努力をしないと、このウイルスには勝てません」と説教なさり、まるでワイドショーの放言のようだと思いました。

おそらく、記者会見には慣れている人に、こうした放送事故が起きるということは、背景事情なり個別のできごとなり、手に余るような事態がありそうな気がします。例えば、世界中で使われているPCR検査がなぜ増えないのか、私の理解も想像力も超えています。しかし、大臣、この仰り方では国民の心には何も届きません。


たいていの国民は、すでに多大なる努力をしています。どんな努力をすれば、「勝てる」のか知りません。緊急事態宣言は「もう誰も」という文脈では使えません。脚本が無いと支離滅裂になるのは、親分のマネですか。そんなことより、東京は陽性者の報告数が200人を超え、市中感染とかエアロゾル感染とか、物騒な言葉が飛び交っていて、住みやすいとは言い難い。

医療体制に不安がある等の理由で、地方が警戒なさるのは当然のことです。しかし早くもSNS等では「都民の奴ら、来るな」などと罵詈雑言を吐く者も出ているので、その一人の言い分くらい聞いてもらいましょう。観光庁のサイトにもあるように、これまで旅行の行き先はと都道府県別で東京がトップだった。


それに旅行というのは、観光旅行だけではない。業務出張先も「都民の奴ら」が住んでいる場所が多いはずです。観光業のみなさんには誠にお気の毒ですが、今の私はこのキャンペーンに反対です。

でもこれを阻止しても、東京には人が集まるし、報道によれば、その人たちが地元に戻って発症することも少なくない。諸悪の根源が東京だと平気で言う者は、いまだに武漢ウイルスと蔑称している連中と変わりがない。


とはいえ梅雨が明ける頃の7月22日から、「go to キャンペーン」を始めると政府が言うわけですから、夏休みを念頭に支持者層に儲けてもらいたいのは明らかです。

官房長官菅義偉君は、珍しく歯切れの良さを見せつつ、迷わず実施すると宣言なすった。彼は、圧倒的に「東京問題」と評価していたのに大丈夫か。椎名林檎みたいな語感。


為政者の政治判断や言語表現には、もう付き合いきれず、前回、私は自分で決めると書きました。人それぞれ、事情も違えば、考え方も異なる。きっと夏にまた感染が拡大し、秋に患者が増え、冬にインフルエンザと重なると覚悟します。もう半年ほど我慢と倹約を重ねましたが(葬式の帰省さえ取りやめた)、まだまだ長期戦になる。

これまで行政に言われるがまま、できる限り自粛してまいりましたが、ずっと籠り切りでは体が持ちませんし、もう為政者も本件に関しては、信用なりません。梅雨明け前にちょっと自宅から出ます。キャンペーンが始まって混み合う前に。そのあとは、我慢の限り籠城戦だ。今回は言葉が荒れて申し訳ないです。今はウイルスより経済より、心身の変調のほうを心配しています。

それでも何かキャンペーンをやりたいなら、「どこかへ行こう」ではなくて、「都会には近寄るな」のほうが予防には有効であるはずです。来るなら満員電車で歓迎申し上げることになる。近ごろ外勤するたびに(週に一回くらい)、都心の社会経済活動が元に戻りつつあるのを肌で感じます。金持ちは箱根や軽井沢の別荘に逃げているという噂。原発事故のときと同様です。東京の観光業は、都民が支えようか。迷惑かな。難しい。



(おわり)




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上野不忍池 スッポンの大物  (2020年7月2日撮影)















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