おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

5月25日 ジョージ・フロイド氏  (第1271回)

タイトルにある黒人男性の悲劇と、その後の米国内、飛び火して世界各地で起きたデモや暴動については、日本でも大きく報道されました。出来事はみなさんご存じだろうし、ネット等で調べるのも今なら材料が多いですから、ここでは個人の感想のようなものを書くことにしました。

1986年から5年近く、日本の営利企業の在米駐在員として、カリフォルニア州で働いておりました。前半がロサンゼルス、後半がサンフランシスコ。西海岸は、当時聞いたところでは、東海岸ほどには人種差別が厳しくないとのことでした。何度か嫌な思いをした程度で済みました。石、投げられたりとか。

それでも、在留中、LAで一回、SFで一回、何日にもわたる黒人の暴動が起き、店が焼かれたり略奪されたりしました。また、テレビのニュースで何度か、黒人が白人の警察官に暴行されるシーンも見ました。人殺しになると、さすがにニュースになる。


話はそれますが、LAに着任当時、ずっと上の先輩から体験談の一つとして、こんな話を聞いたのを覚えています。当時はネットなんてなくて、経験者の教訓は大事なものだった。彼はある日、若い米国人の現地採用の部下から、自分に仕事を命ずるときは”please”とつけてほしいと頼まれたと言っていました。

その通りに中学校の英語の授業でも習っているのですが、ハリウッド映画やロックの歌詞なんかをみていると、古代日本の表現でいうところの「目上の人」に対しても、”Take it.”とか”Look out.”とか言うとりますね。

だから英語の「命令形」は気軽に使えると思い込んでいたのですが、私はその日から今にちまで、仕事では言葉遣いが丁寧になりました。反動は家庭や飲み会で出る。


次にURLを貼る動画は、ニューヨーク・タイムズ紙が制作したもので、最初にお断りしておかねばならないのは、英語で「閲覧注意」の旨、書いてあるように、この映像の中でフロイド氏は殺される。2020年5月25日、月曜日の朝8時前。私は最初に観たニュースが、たまたま、これでした。参った。

8 Minutes and 46 Seconds: How George Floyd Was Killed in Police Custody [Video] - The New York Times


これを見ると、一連の犯行はその前からの様子も含めて、詳しく分析されている。パトカーの近くにあったスーパー・マーケットと、道路の反対側にあったコンビニエンス・ストアの防犯カメラに映っている。また同行者や通行人の携帯端末により、音声まで記録に残されている。四つ角の交差点そばです。

そういう時代・環境(監視社会といいます)であることぐらい、警察官なら良く知っているはずなのに、4人がかりで取り囲み、うち3名で伏して動かない男の上に、のしかかっている様子です。彼が発した”I can't breathe.”という言葉は後にデモのスローガンにもなりましたが、私にはその後の、”please”が辛かったです。

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あくまで個人の見解ですが、イギリス人にこんなことを言われたことがある。その前に、西欧のどこかの国で、黒人の乗務員がバスの階段から蹴り落されて亡くなるという事件がありました。私が黒人差別は、アメリカだけかと思っていたと不用意なことを相手に言ったときの反応です。

「ヨーロッパでは、問題にすらならない。アメリカは、まだしも悩んでいる」。そんなことを聞きました。それほどの差があるのかどうかはともかく、今回は1968年のキング牧師の暗殺時以来という社会現象になりました。治安維持は州兵の仕事だと理解していますが、トランプ大統領連邦軍を呼んだ。


次の映像は、スタンドアップ・コメディ。マイケル・チェ、2016年。テーマは、Black lives matter。英語の字幕しかありませんが、読書百篇、意おのずから通ず。彼の間の取り方や、観客がどこで笑うかなどの流れで、わずかにですが言わんとしていることは伝わってきます。

https://twitter.com/NetflixIsAJoke/status/1270702258385301505


抜粋するとトゲトゲしくなりますが、仕方ない。ゲイは平等な権利を求めて戦っているが、黒人は市民権から交渉の始まりだ。誰にも平等な権利があると人は言う。それは「私を愛しているの」と訊くワイフに、「俺は誰だって愛している」と答えるようなものだ。9.11をオチに使うとは至芸です。

このあと挑戦してみたのですが、”Black lives matter.”を上手く訳せない。マイケルのネタにされそうです。そういうときは、否定形の否定を試すという手もございます。”It doesn't matter.”は、よく聞く言葉で、大したことない、放っておけというような意味です。この否定から交渉が始まる。また"life"は、生命を意味するのみならず、日々の暮らしのことでもあります。


一部で破壊や略奪の行為がありましたが(日本の報道はそればかり強調する傾向が多分にあります)、多くは非暴力のデモでした。とはいえ初期段階では、怒りの爆発で、乱暴狼藉もありました。みんなストレスや不安をため込んでいます。お金にも困っている。

しかし翌日だったか、弟さんのテレンス・フロイド氏が事件の現場に来た。支えられながら泣ていました。それでも、ここからなら大勢に伝わると考えたのでしょう。横行する暴力行為について、何も生み出さない、こんなやりかたは駄目だ、と訴えていました。彼も最後に付け加えている。”Please”。


亡くなったフロイド氏は、上記のNYタイムズによると、コロナ・ヴァイルスの影響で、勤め先のレストランをクビになっていたらしい。死後にご本人も感染していたというニュースもありました。COVID-19は世界中で、そしてここ日本でも、泥沼のような社会経済の問題を浮き彫りにしています。

マスメディアの報道姿勢は、結局、視聴者や購読者の関心の在りかに左右されます。対岸の火事だと思われていたら売れない。でも他人事ですか。コロナ禍の一つだと思います。普段、弱い人は声を上げない。もっと酷い目に遭うおそれがあるからです。

そして本件も、大国アメリカだから、発信力があるので、私にも伝わる。個々の出来事を知らないだけで、世界では別の似たようなことが起きているはずです。病気も経済も、いま「普段」ではない。これから、思いもよらなかったことが起きると思います。



(おわり)



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上野寛永寺  (2020年5月1日撮影)







 How long, how long must we sing this song?

        ”Sunday Bloody Sunday”   U2




















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