おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

5月15日 シュプレヒコール  (第1270回)

前回の東京アラートが出たのと同じ日、いつもどおり自宅兼事務所で書類仕事をしておりましたが、途中から国会中継に集中する破目になった。ことによってはこの日、「国家公務員法等の一部を改正する法律案」が強行採決されるおそれがありました。

この法案の第四条が、このころ大論争を呼んでいた「検察庁法改正案」にあたる。したがって、きゃりーぱみゅぱみゅらの抗議に対して、「法案も読んでいないのに」と大学教授までが反発していたのだが、懸案の事項は法案というよりも、形式上は条文案です。


こういう分かりにくい状況が生まれたのは、ひたすら閣僚と高級官僚に責任がある。「束ね法案」という強硬手段で、似たような法律を一気に改正することが可能であり、集団的自衛権のときも、働き方改革のときも、これを用いて「効率的」に好きにできると味を占めた。

結局この日は、野党が国家公務員法担当の武田大臣に対する不信任案を提出し、不信任案は他の法案に先駆けて審議すべしという国会のルールにより、採決は流れた。そのあと今国会では諦めて次回に延期とされ、さらに賭け麻雀事件が発覚して検事長が辞任、国会終了とともに廃案になった。


5月から6月までのこの一連の経緯は、多くの報道やネット記事があるので、ここで繰り返すのは避け、そもそもどんな手順で始まったのか見たい。高年齢者は温故知新に貢献すべし。もちろん、COVID-19の感染拡大と並行して起きているので、そちらの復習も兼ねます。

2020年1月30日、WHOが緊急事態を宣言した。この日は中国の春節七連休の最終日にあたる。これを偶然と思う人とは、話が合わないと思う。翌31日、日本政府内では定例閣議があった。首相官邸のサイトによれば、定例閣議は国会開催中の火曜日と金曜日に行われる。1月31日は金曜日でした。


この日の閣議決定案件も、首相官邸のサイトにある。遠い昔の話のようだが、真ん中辺りにある「提出保釈中被告人の国外逃亡事件の原因究明と改善に関する質問」とは、カルロス・ゴーンの一件だ。新型コロナウイルス直前の新聞などは、この話題一辺倒でした。

その下のほうに「人事」というジャンルがあり、その筆頭が「検事長黒川弘務の勤務延長について(決定)」です。さらりという感じであり、このあと官房長官が対応した記者会見でも全く触れていない。


しかも、この会見で伝えているのは予算と公共事業(特にオリンピック・パラリンピック)のことばかり。さすがに前日のWHOの宣言や、武漢に飛ばしていたチャーター機についての質問が報道陣から出ている。ダイアモンドプリンセスは、このすぐあとに話題独占の状態になりました。そういう時期です。

この検事長の定年延長に係る閣議決定に対する反応は結構、早かった。でも私達ほとんどが、この時点では政治に無関心でした。週明けの2月5日、国民民主党から内閣に対して質問状が出されている。衆議院のサイトにあります。


答弁はなぜか時間がかかり、2月18日付。どうして延長するのかという質問に対し、「検察庁の業務遂行上の必要性」とのお答え。

ちなみに、1月31日の閣議議事録のほうがまだしも詳しく、「本件は,同検事長を管内で遂行している重大かつ複雑困難事件の捜査・公判に引き続き対応させるため,国家公務員法の規定に基づき,6か月勤務延長するものでございますとある。ゴーンさんの以外の例は後述します。


本件は内閣が、弁護士会や検察OBを敵に回したのも大きかった。各地の弁護士会から抗議の狼煙が挙がりました。ここでは一例として、わが故郷の静岡県弁護士会のウェブサイトをご案内します。これは3月2日付。

報道はどうでしょう。日経新聞の反応が素早く、2月3日付だから、野党の質問状より先です。「検事長の勤務延長は異例」と報じている。


もう一つ、2月8日付の河北新報。「検事総長人事を巡る官邸の恣意(しい)的な介入は、決して看過するわけにはいかない」と手厳しい。しかも、これは社説です。さらに、IR疑惑や「前法相の妻による公選法違反疑惑」にも触れています。

これらの動きにも拘らず、内閣は1月31日に方針を決めた定年延長の件を盛り込んだ法案を、3月13日に閣議決定し、近国会(第201回)に提出することが決まりました。このあとの総理大臣や法務大臣の禅問答は、書き出すに値しないものです。みんな、そう思ったはずです。


この立法過程は、COVID-19の感染拡大と、自粛要請から緊急事態宣言にいたる健康管理、私生活、学校教育、経済活動とあらゆる面で国民の暮らしに制約が加わっている中で進められました。自宅にこもりきり同様の私達は、ネットやマスメディアを通して政治的になりました。

普段より時間と体力があるし、コロナ禍自体が政治問題だから当然のことです。そしてその結果、私達は茶番劇を見せられました。キーワードは「火事場泥棒」と「どさくさ紛れ」。法案なんぞ読まなくても読めなくても、支持政党の如何に拘らず、この人たちに任せるわけにいくかという流れになった。


我が国の民主主義はまだまだ成長途上であろうと、ここに伝家の宝刀を抜いたのだと思います。5月15日、なぜかTVのキー局が全く報道しない国会(衆議院内閣委員会)を、「THE PAGE]がYouTube実況中継しました。

休憩時間でずいぶん待たされましたが、これは観て良かったと今でも思います。議事堂はそれ相応の防音設計がなされているはずですが、会場に外の声が聞こえてきました。明確に何を言っているか判じ得なくても、怒っていることはわかる。かつて岸信介は国会の外が騒々しい云々と言ったらしいが、宰相がよほど強引でなければ、こういうことは起きない。



(おわり)



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やはりこの日は「話せばわかる」日ではないのか  (2020年5月15日撮影)





 シュプレヒコールの波 通り過ぎてゆく
 変わらない夢を流れに求めて
 時の流れを止めて 変わらない夢を
 見たがる者たちと戦うため

      「世情」 中島みゆき















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