本年4月20日、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相は、同国のロックダウンを、同28日から段階的に解除する方針を表明しました。最大の警戒度4から3に移行するというもので、後に5月13日には警戒レベルは2となり、現在に至っています。ニュージーランドは、COVID-19 の第一波を封じ込めた国との評価を得た。
私にとっては、行ったことのない国です。地理的には南半球に大きな島が二つあり、首都がオークランドであることぐらいしか知らない。歴史的にはかつてイギリス領だったが、オークランドの名を覚えた「十五少年漂流記」に、アメリカ人やフランス人も出てきて、移民の国という印象がある。
2011年2月22日、初めて聞く名だった同国のクライストチャーチ市で、大きな地震がありました。死者185名。冬休みの留学中だった日本人の学生も大勢、犠牲になり28名が落命するという惨事になった。若い人の笑顔が並ぶ痛ましいニュースでした。
この災害は、一か月も経たぬうちに起きた東日本大震災のため、報道が一気に流れを変えてしまったのだが、ニュージーランドでは去年(2019年)にも火山の噴火で、観光地が被災しており、太平洋の反対側同士、自然の厳しさにしばしば直面する。
ニュージーランドといえば、オールブラックスです。ラグビーの2019年ワールドカップ日本大会。優勝は逃したが、ラグビーといえばニュージーランド、サッカーでいえばブラジル。わたしたちは先住民マオリのハカを観た。なお、マオリ語で「アロハ」は「愛」なのだそうです。
大会当時、アーダーン首相も来日してイベントに参加し、エプロン姿で名物のラムチョップを配って歩いたと朝日新聞が報じている。サザエさんのような人だと思いました。これが2019年の秋。今にして思えば、あやういタイミングだったのだ。
彼女の政権によるCOVID-19対策は、いま世界的に高く評価されているようで、このBBC日本語版が伝える4月20日の記事にも、感染症抑制の成功例とある。一方、日本の報道には朝日以外、滅多に出て来ません。左派労働党の政権だからだろうか。
アーダーンの名は、彼女が首相在任中に妊娠、出産、産休に入ったときに知りました。また首相になってから婚約を発表したのだが、今なお結婚はしていないらしい。想像ですが、婚約発表の直後の事件がそれを阻んだのかもしれない。クライストチャーチで、ムスリムを狙い撃ちにした銃の乱射事件があり、複数のモスクで50名もの人が命を落とした。
これを受けてアーダーンは3月15日、一年ほど更新せずに放置していたらしい個人のTwitterで、イスラム教徒の国民に向け、ニュージーランドはあなた方の祖国だと速報をうち、さらに演説を行い「犯人は歴史に悪名を残さんとしたが、ニュージーランドはテロリストに名を与えない」と厳しく非難した。なお、クライストチャーチは武漢と姉妹都市らしい。
まだまだ忙しさが続き、2020年に入ってコロナウイルスが世界的な感染拡大傾向を示した。イースターを控えた3月25日、これも朝日新聞の記事によると、まず首相は記者会見において後述する「レベル4」を宣言、続いてFacebookから、育児中にトレーナー姿でネット配信までやった。
この前後、ニュージーランド政府は、出入国管理の強化、中小企業支援、大学生に対する補助、エッセンシャル・ワーカーズの休暇制度などの諸対策、また、公的機関への連絡手段や予防策の解説などを次々と公表していった記録が、労働党のTwitterに残っている。単に国民を自宅に閉じ込めただけではない。
先ほどから出ている「レベル4」というのは、ニュージーランド政府による強い行政指導のようなものらしく、同国政府のウェブサイトにその解説が載っている。一番強い警戒水準のレベル4が、ロックダウン。「疾病を制御できていないとみられる段階」。
レベル4のリスク評価は、共同体を超えた感染の拡大、広域のアウトブレイク、新たなクラスターの発生。指示内容の筆頭は、「stay at home」。地域の催事はOK。人が集まる公共の施設や、教育機関は閉鎖。でも生活必需審は手に入りますからご安心ください。厳しいが、都市閉鎖という監獄島のような物々しいイメージではない。
こうして各国の指導者の言動を振り返ってみると、彼らは単に緊急時にアドリブが効くという程度のレベルではなく、普段からいろいろな場面に備えてどう動くのかについて、創意工夫を重ね、準備をしているのだと思います。2020年度予算におけるニュージーランド政府の基本方針は、雇用の創出と維持。先を行く背中が見えるうちに見習おう。
(おわり)
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