おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

5月2日 「基本のキ」ウイルスとは何か  (第1262回)

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カラスの勝手でしょう、か。




今回は医学者の資料をご案内します。前にも触れているように、自分はかき集めた情報源を、直感で絞って使っておりますが(みんなそうだろうけれど)、その中の一つに京都大学iPS細胞研究所山中伸弥所長のウェブサイト「山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信」があります。

ご本人がプロフィールで書いてみえるように、彼は「幹細胞の研究者です。感染症や公衆衛生の専門家ではありません」。ノーベル賞の権威で物申せるジャンルではないが医学者です。現実に感染症や公衆衛生の専門家が相互に、誰それの言うことは間違っているという話がネットという素通りに近い情報網から伝わってくるため、それを整理して分かりやすく解説してくれるなら、隣接の領域のプロでも構いません。


ついでに言えば、去年、山中所長の研究所は、確か研究資金が枯渇状態になり、所長自ら勧進してまわるという気力と行動のお人でもある。最近はその整理・伝達能力となじみやすさを思い出したのか、メディアにも招かれるようになりました。オンライン取材の画面の背中側に、人間万事塞翁馬という掛け軸のようなものがあるのが気になる。その山中所長のサイトに、5月2日付で紹介されていたのが今回の題材です。

文書の題名は、「コロナウイルス arXiv*(9)2020 年 5⽉2⽇ ⿊⽊登志夫」。 山中サイトの「専門家、書籍に学ぶ」のコーナーの紹介文は、「黒木登志夫先生は私が尊敬する癌研究者であり、サイエンスライターでもあります。岐阜大の学長も務められました。新型コロナウイルスに関する情報を、様々な角度から解説されています。ガンの権威にして発信者です。
https://shard.toriaez.jp/q1541/082.pdf


こちらも2020年5月2日付のもので、ウイルスの基本の「キ」を書いたものである由。率直に言えば、基本の「キ」を読んでもまだよく理解できないところが残りますが、いま世のため人のため大事なことは、私が自己流でウイルスを解釈することではなくて、分かるべき人が分かりつつあることです。分かるべき人というのは、たとえば眼前の感染症の拡大・悪化を防ぎ得る人、手段は予防薬と治療薬の開発および大量生産です。

第一章が、基本の「キ」ウイルスとは何か、です。素焼きの濾過器を通り抜けてしまう「1000 万分の 1 ミリ程度の⼩さな病原体ですので、普通の顕微鏡では⾒えず、
電⼦顕微鏡が必要」だそうだが、とにかく小さいらしい。私が子供のころ、お医者はドイツ語を使っていましたので、ビールスという呼称がまだ流通していたのをよく覚えています。


次の「最も本質的な特徴は、⾃らの持つ遺伝情報(DNA/RNA)をタンパクに翻訳することが出来ないこと」というのが、結核やペストの病原菌のような「細菌」との質的な違いの根幹部分のようです。ウイルスは、遺伝情報を自前で持っている。しかし、その設計図的なものがあっても、材料たるタンパクを使った製造(われわれがやっている細胞分裂のようなこと)が自力ではできない。そんな理解でよろしいでしょうか。

やたらと小さくて、性能も低いとなれば、敵に非ずと思いきや、他者の細胞に無断で寄生し、自己複製や悪さができるらしい。逆方向からIT業界の用語「ウイルス」で見当をつけたほうが早そうだ。外から中に入ってきて、それそのものは悪意があろうとなかろうと、私らに多大な迷惑をかける。


次の「このため、ウイルスを増やそうとすると、培養している⽣きた細胞を増殖の場として⽤意しなければなりません」という点は、先日テレビかネットのニュースで見たのですが、例えば鶏卵のように多数を容易に入手できる「生きた細胞」の「増殖の場」があれば、ワクチンの開発も進みやすいらしい。寄生先に好き嫌いがあると、困ったことになる。今きっと世界中のサイエンティストが、このハードルに挑んでいるに相違ない。陰ながら応援します。

このあとから段々と不慣れな専門用語が増え始めますが、3ページ目にある細胞・細菌とウイルスの増殖のイメージ図を見て驚けば、素人には十分でありましょう。倍々ゲームどころか、爆発的に増えるそうだ。さらに、ウイルスには種類があり、新型も含めコロナウイルスRNAのタイプで、しかも「⼀本鎖」のため、「間違いを補正するべき相補的なRNAがない」。不吉な感じです。どうやら突然変異を食止めるような、ストッパーご持参ではないらしい。


こう教えてもらうと、中国株だ欧州株だという議論が早々に出回ったのも分かったつもりになれます。それに以下の研究状況によると、新型コロナウイルスにはABCの三種類があり、粗っぽく概略すると、Aタイプが最初に武漢で発生したらしい軽めの症状のもの、Bタイプがそのあとで東アジアに広まったもの、Cタイプは更に強力になって、欧米に広まったもの。

もっと細かく言うと、米国の東海岸と西海岸でさえ違う。変身しながら拡散する。これ全部に効く薬ができるのかどうか心配になります。黒木教授の表現をお借りすれば、「いずれにしても、RNA型のウイルスは変異しやすいので、今後、より感染⼒、病原性の強い変異が出てこないか⼼配です」。 心配は将来に向けて続きます。


このあと、いきなり医学から離れ、アメリカのトランプ大統領と、ニュージーランドのアーダーン首相のスピーチが並んでいる。トラのほうは、「殺菌剤を注射するか、紫外線を浴びれば良いというこれまで誰も考えなかったような提案しました」ということで、紙一重のどちらかにいる様子。アーダーンの冒頭の一言が良い。”Be kind." 

前代未聞の出来事だけに、政治家の資質や姿勢がまっすぐ出てきて聞くものに届きます。中にはろ過することしか言えない者もおる。終章は文芸欄、「コロナ秀歌・秀句」であります。先生も前の日に、朝ドラで志村をご覧かな。季語はまだ春。しかし南半球は季節が逆だし、夏型や年中無休のウイルスもあるらしい。まず日本では、これから高温多湿の梅雨を迎える地域が多いですから、どうなることか要注意です。



(おわり)



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上野不忍池の鴨  (2020年5月2日撮影)












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