おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

シン・ゴジラふたたび  (第1159回)

 せっかく旧ゴジラの映画を観たので、もう一回レンタルして「シン・ゴジラ」を再び観ました。今日もまた、とりとめもない感想文。すでに鑑賞一回目の感想は、第1095回に書いているので、そのおまけ。初代の歩行経路は前回触れたように、東京大空襲空爆ルートであった。

 今回はどうなのだろうという目で見ていたのだが、分からんかった。東京湾から多摩川を遡上している。鮭にせよ鮎にせよ、水棲生物が川をさかのぼる目的は、産卵だ。鰻だけが逆行するのはなぜなのか。かつて、何か嫌なことでもあったのだろう。ともあれ、シン・ゴジラもラスト・シーンからすると、子作りのために上陸した気配がある。


 この映画のキー・ワードの一つは、何度か出てくる「進化」だ。海の中にいたころは尻尾と背中しか見えないので省略。全身のお姿を拝めるのは、多摩川から蒲田に上陸した両生類のような形態。今月、大型連休に川崎大師へお詣りしたばかりなのだが、多摩川をはさんで反対側にあたる。ネット情報によると、蒲田君というらしい。悪くない。かつて東宝の商売敵である松竹の撮影所があった。行進曲もある。

 最初に観たとき、私は「やしおり作戦」の意味が分からず、インターネットで調べたら出典は古事記らしい。フェイク・ニュースをつかまされる時代だから、私の仕事仲間と親族に国文出身がいるため訊いてみたところ、そのうち一人が古事記専攻という奇跡の人で、間違いないとのことだった。


 初代のゴジラは、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)と同様、若い娘の人身御供が好きという凶悪好色な奴で、この点、シン・ゴジラにはそういう場面はなかった。ただひたすらに壊すだけで、人類の8倍の遺伝子情報がある割に、やることは人間並み。この八岐大蛇の容姿について、当家の「現代語訳 古事記」(河出文庫)にこうある。

 「その腹を観れば、不断に血を流して血膿のようにただれている、まったく恐ろしい怪物でございます。」と狙われている娘の親が解説している。行進中の蒲田君と似ている。ちなみに、怪物退治を頼まれた素戔嗚尊は、その娘を妻にくれないかと頼んでいる。どっちもどっちだな。


 運悪く最初に遭難したのは、海上保安庁の巡視艇だった。これは前回話題に出した明神礁の爆発に由来するものだろう。案の定、私と同じ年代かそれ以上の大臣らは、海底火山説を支持する者が多かった。さすがに若い人たちは頭が柔軟で、アクアラインを作ったときに地質調査済みで、ありえないという。このあと、ありえないことだらけ。

 海保が捜索にあたったボートは、牧教授という大戸島出身の学者の舟で、靴と眼鏡と折り鶴を丁寧に置き遺しているから、覚悟の行方不明だろう。「好きにしたら」というのが、もう一つのキー・ワードとしてあり、この牧先生の走り書きと同じことを、後に臨時の総理に向かって竹之内補佐官が勧めている。

 この補佐官は、先の大戦時の参謀みたいで「少数の犠牲はやむを得ない」と語るような人物であり、こう切れ味が良すぎると、日本型の親分には向かない。それにしても、政治家も官僚も経済問題ばかり気にしているのが如何にも現代的だ。


 石原嬢が、牧教授はゴジラが7年後だかに再登場すると予言したというようなことを語っていたが、そもそも彼の出身地こそがゴジラ類の生息地であり、漢字でどう書くかも知っているし、だからこそ生物とエネルギーを研究していたはずだ。究極の生命体は、エイリアンもそうだったが、悪食で食いしん坊です。核廃棄物まで食ったらしい。そして、独自にラジオ・アイソトープを創った。これが進化か。

 子供のころは進化論に感心していたものだが、今では運動選手がちょっと腕を挙げただけで「進化」と呼ばれる。でもまあ、進化なんてそんなものかもしれない。人間様も万物の霊長などと威張ってきたが、実際、人類より大きいもの、速いもの、力が強いもの、長生きするものは幾らでもいる。屋久杉なんて縄文時代から立っていなさる。

 進化ゴジラの単性生殖は、動物にもあるが、やはり植物的だと感じる。不死性も同様。そして、私たちは終末期の昆虫を、勝手に成虫などと呼んでいるのだが、あれは生殖用のお姿にすぎない。


 これまで幾多のゴジラ映画を見てきた世代としては、散々壊されてきた列車や高層ビルで仕返しをすべしという気持ちがよく分かる。典型はエンディングのクレジットに豪華な顔ぶれを並べている自衛隊で、過去、戦車や爆撃機が受けた損害を一気に挽回すべく全精力を傾ける。

 防衛出動も日米安保条約の発動も、私が知る限り史上初のことだ。防衛出動の要件として、相手が「国または国に準ずる」ものである必要があり、これは映画公開の直後に稲田が「国又は国準」と国会で連呼していたのが記憶に残っている。

 石原ちゃんが、空軍も海兵隊も応募者殺到と語っていたが、これはたぶん少し前に起きた原発事故のときも、そして、ずっと前に起きた真珠湾攻撃のときも同じで、正義の味方になるのが好きなのだ。最初からアメリカに上陸してやればよいのに。


 今回のゴジラは、鰓呼吸やら、尻尾を器用に使うやら、蛹のようにうずくまって休んで変態するやら、これまで食い尽くしてきた生物から、いろんな遺伝子情報を吸収する能力を持っているらしい。

 したがって、ヒトの凶暴さも引き継いでいる。牧先生のお知恵も拝借しているかもしれない。最後は熊のごとく冬眠した。基礎代謝未満まで下げて、いわば充電中である。いずれ起きるだろう。



(おわり)



川崎大師  (2018年5月5日撮影)













 時が行けば幼い君も大人になると気付かないまま...












































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