おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

白雪姫の保護者  (第1113回)

 この思わせぶりのタイトルは、先日レンタルで観た映画「スノーデン」に出てくる言葉を借りたものです。白雪姫は主人公のあだ名で、英語では「スノー・ホワイト」だから、たぶん本名に掛けている。保護者はガーディアン紙のこじつけでございます。

 ガーディアンは、守護者という意味が一般的であるように思う。人それぞれに、共同体それぞれに守護者がいるようなので、一神教の発想ではない。アイルランドスコットランドに残るケルトの神話から来ているのだと思う。おそらく本件の当事者も映画の制作側も、米国政府に多大なる好意は抱いていない。


 告発されているのは、何回か前に話題にした映画「エネミー・オブ・アメリカ」と同じ政府機関であり、せっかく昔の映画で教育的指導を受けていたのに、無視したため大騒ぎになった。

 主人公は今も元気なのだろうか。彼が実見したものは、映画どころではないはずだ。映画の冒頭に、「被害者」の一人としてパキスタン人が出てくるが、オバマ政権にパキスタンとくれば、ビンラディンの成敗を思い出す。

 同じオリバー・ストーン監督の映画「ワールド・トレード・センター」と比べても、また、脇にまわったニコラス・ケイジも、こちらの「スノーデン」ほうが断然いい。イーストウッドの息子の目付きもいい。最後にピーター・ガブリエルの歌が聴けるのもいい。


 こういうブログを書いているだけで、監視者にとっては私も危険人物なのだろうが、もうとっくに無数の危ない言葉を発し続けているし、アメリカの悪口も言いたい放題だし(5年も住んでいたから、一番愛着のある外国なので、言いやすいのだ)、始末される程度なら、とうにされているだろう。

 しかし、平気でこういう覗き見をする組織・人間というのは、羞恥心とか罪悪感とかいうものが枯れ果てているに相違ない。ピーピング・トム。しかも、自分は正義の味方だと思っているから手に負えない。


 プライバシーというのは、誰にも言えないことに限定されるものではない。むしろ、誰かは知っているものであって、人間ひとりで、墓場まで持っていくべきものというのはそうはない(関口先生も結局は、ヨシツネの交渉に応じたもんね)。個人情報も、宣伝する必要があるかどうかはともかく、ある程度の人に知っておいてもらったほうが、いざというとき便利で安全だと思っている。

 それよりむしろ、Aさんに出したメールを、Bさんには読んでほしくないというようなものが、私にも少なからずある。そして、この無芸大食・人畜無害の当方より、もっと危うい綱渡りの人生を送っている人のほうが多いはずだ。それらが全部、知ろうと思えば知られてしまう。加えて、自分のものだけならともあれ、付き合いのある人の情報まで、自分から洩れる。


 スノーデンの言動が報道され評判になり、あの映画や本が生まれ、取り締まりの法律ができたからと言って、事態が劇的に改善したと思う人は少なかろう。その逆だと考えておいた方がよい。ヒラリーのメール。メルケルのケータイ。電波は空を飛び交い、しっかり誰とでも繋がっているからこそのインターネット。

 協力していたポータルサイトSNSなどの実名が挙がっているが、いま使っているかどうかは別として、私は全部、年単位で利用した実績がある。Bさんには見られたくないメールとか検索とか、数えきれないほどある。どこに格納されているのだろう。永久保存だろーなー。いつ「悪人」になるか分からないのだから。


 前回の続きで言えば、オウムはアナログ的な犯罪集団であった。1995年だから、漫画「20世紀少年」で神様が感心していたウィンドウズ97は、まだ発売されていない。インターネットも携帯電話もあまり普及していない。思えば静かな20世紀でした。持ち歩く荷物も軽かった。

 これが近未来の”ともだち”の時代になると(ちょうど今頃である)、GPSの監視社会になっている。現実でも私のSNSは時々、あなたのセキュリティのために電話番号を登録しましょうという有難いメッセージを送りつけてくる。白雪姫は私と違って猜疑心を全く持たず、毒リンゴを食ってしまった。

 おもえば私たちへの警戒警報は、とっくに数多く発令されていて、ここで話題にしたものだけでも「1984」、「華氏四五一」、「エネミー・オフ・アメリカ」、「20世紀少年」、「ゴールデンスランバー」等々。「第三の波」は、天気晴朗なれど波高し。


 ここらでアメリカ人の御機嫌伺でもするならば、本件のような報道や映画の制作がなされるということは、自浄作用がまだまだ働くだけの健全さが残っている。他方で、このあとになって、あわてて特定秘密の保護とか共謀罪の阻止とかいう法律を作る国家があるとしたら危険物だ。

 こういうことばかり書いていると、そのうち次の発信はモスクワからなんてことになると困る。寒いのは苦手です。どうしよう、このPCのてっぺんについているカメラ。何故こんなに、使ったためしのない機能がたくさん付いているのだ。





(おわり)






美濃国 春日村の空 口直し  (2017年7月21日撮影)






 興味津々の様子で
 誰もがお前を観ている
 会う人みんなが
 お前のことを知っているようだ...

    ”New Kid in Town”  Eagles





 There's no safe place to go.
 Now you've let that whistle blow.

    ”The Veil”  Peter Gabriel