おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

一難去って (20世紀少年 第460回)

 驚いた。これまで私は、例えば表紙に「15」と書いてある15冊目の単行本を「第15巻」と書いてきた。普通、「巻」と呼びますよね。ね? でも、ふと最後のほうのページを見たら、「20世紀少年」第15集−完−、と印刷してある。「巻」ではなくて、「集」だったのだ。ちなみに、「PLUTO」も集だが、「YAWARA」と「パイナップルARMY」は巻になっている。

 なぜこんな手の込んだことを。「パイナップルARMY」のような短編集であれば「集」でも分かるが、分別の法則性が見い出せない。ともあれ、これからは「集」と書きますが、過去459回分を書き直す根性はないので、そのままでご容赦願います。なお、さすがに「21世紀少年」は、上巻と下巻になっている。


 第15集の第8話は「史上最大のショー」というタイトル名。名付け親は興業好きの万丈目。オッチョやカンナやマフィアの自警団が、13番の姿を探し求めて歌舞伎町を駆けまわっていたころ、教会に招き入れられた法王は、「素晴らしい教会です。ニタニ神父。」と賛辞を贈った。仁谷神父は「光栄です」と簡潔にお礼を述べている。何年ぶりの再会であろうか。

 法王の前にある祭壇は、かつてカンナが本日の臨時自警団の連中を相手に、「静かに」と怒鳴りつけてスピーチをしたり、スプーンを曲げたりした場所である。その後ろの壁には十字架のイエス、そして、その上はオッチョが損壊した「INRI」のステンド・グラスだが、どうやら法王様がお越しとあって、新しいガラスで作り直したらしい。


 法王は「もっと時間があれば、また二人で、おいしいワインをくみかわしたいですね」と述べ、仁谷神父は「もったいないお言葉」と受けたが、鋭い目で左右を見まわしている。重要な伝言があるのだ。カーテンに半分、身を隠してルチアーノ神父とマライアさんが心配そうに見守っている。ガードマンだな。腕っぷしには自信のある二人です。

 ここで神父は、おそらく声を落として「一刻も早くこの地を、日本からお離れください」と法王に伝えた。法王の表情に変化はない。ここで取り乱してはいけないとの判断なのか、それとも、やっぱり神が守ってくれるから大丈夫なのか。だが、お付きの者から「そろそろ、お時間です」と声がかかって、会話が途切れてしまった。


 ただし、車に乗りがてら、法王は付き添いの仁谷神父に対して、「2001年、あの激流の中も私は生きのびた」と神父を安心させたいかのような言葉を伝えている。だからこそ、お守りしたいのですという仁谷神父の顔の怖さよ。神父を乗せた車は、そのままゆっくりと歌舞伎町を去った。13番は歌舞伎町には現れなかったのだ。

 さあ、マフィアたちは、明日からまた、あくどくショーバイをさせてもらうぜなどと快哉を叫びながら、早くも自警団は現地解散の模様である。カンナも、オッチョのもとに駆けつけて、「やったよ、オッチョおじさん。あたし達、守ったよ。」と声を弾ませて喜んでいる。しかし、すわったままのオッチョは「気にくわんな」と言ったきり、見向きもせずに黙っている。あれだけ「最後の希望」だと言っていたのに、愛想が悪すぎはしないか。

 カンナとマフィアが一安心するのは当然のことである。ローマ法王が新宿に来て、”ともだち”暗殺される。だが、2000年にケンヂが冤罪をきせられたように、今度は歌舞伎町のマフィアの犯行とされて、彼らは世界中を敵に回して潰される。これが、第9集でカンナが想定したシナリオであり、仁谷神父やマフィアはそれに応じて動いたのだから。


 ともあれ一難去って、主要メンバーは教会に集合した。仁谷神父とルチアーノ神父は、何よりここが一番危ないと思っていた教会の訪問が無事、終わってほっと一息である。しかし、カンナはオッチョの横顔を不安そうにながめている。黙ったままの彼に、「オッチョ、どう思う?」と尋ねたのはユキジだった。

 彼女によれば、二人が雨の夜に「”ともだち”にそっくりの男」を見て以来、「なんか、歯車がおかしな方向に回っているような気がして仕方ないの...」という直観が働いているようだ。しかし、どうやらユキジは不安を感じているだけで、何がどうおかしいのか見当がつかないらしい。

 他方で黙ったままのオッチョは、何を考えているか分からないが、少なくとも、そのとき教会に能天気な顔で入ってきた蝶野刑事の報告を聴いた後、具体的な何かを想像したらしい。それが何なのか、まだ考えています。その前に、友民党の動きを追うことにする。



(この稿おわり)




南魚沼産アブラゼミ (2012年8月9日撮影)




金魚すくい(2012年8月25日撮影)





































































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