おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

幹・事・長  (20世紀少年 第707回)

 先日ピンク・レディーの思い出を書きながら、故郷静岡県出身の有名人を思い出そうとしたのだが、いかりや長介とか研ナオコとか「20世紀少年」にわずかにか関わりのある人ぐらいしか思い浮かばず、しかもみんな芸能人だ。教科書に載るような偉大な思想家や政治家はなかなか出ない。あとはサッカー選手なら大勢います。

 しかし忘れてはならん人がいる。本田宗一郎。以下はわずかの期間ながら本田さんと共に働いた人から直接、伺った話だ。出典は私の記憶力だから頼りないが、本田宗一郎の経営者としての言葉やエピソードはたくさん残っていても、技術者としての逸話はそれと比べると少ないだろうから書き残します。

 ホンダの工場に西ドイツから買い入れた最新の工作機械が届いた。周囲が驚いたことに、まず本田さんはこれを分解してしまい、瞬く間に組み立てなおした。部品がいくつか残っている。一仕事終えて、本田宗一郎はこう言ったそうだ。「これで2割くらい性能が上がったよ」。


 そういえば、本田宗一郎には「一度真似をすると永久に真似をすることになる」という言葉がある。”ともだち”が好例であろう。さて、今そこにいる”ともだち”は別件で多忙であり、政務は高須が仕切っている。彼女は周囲から新幹事長と呼ばれているところをみると、万丈目の後を継いだのだ。大出世だが、党首は不在のままなのか? そもそも、ともだち歴になってから友民党という言葉が出てきた記憶がない。

 私の理解では政党とは、フランス革命が流血の中から拾い上げた議会制民主主義の産物であり、独裁者が全て取り仕切っている国において政党は不要であろう。近所の国に一党独裁という不思議な政体があるが、個人の独裁ではないし、党があると何かと既得権益の持ち主には便利なのだろう。ともだち歴においては、”ともだち”とそれ以外しかいないようで、政党は必要ないな。軍隊(地球防衛軍、親友隊、関東軍)と行政府だけの軍事国家か。


 第21集の100ページ目、ともだちタワーの内部。深刻な表情の部下たちからの報告や相談が、健診を終えた高須に殺到している。円盤が空を舞ったため、民衆が恐怖のあまり火星移住局に押し寄せているという。一般に「局」というのは現行の中央官庁においては「課」の上部組織であり、たいていの企業における「部」に相当する。

 少し前に戻ると、第20集の35ページ目に離散家族連絡課でキリコの所在を探っている市原弁護士の後ろの壁に「火星へ行こう」というキャンペーン・ポスターが貼ってある。同じページに出てくるが、その当時の火星移住当局は隣のブースにある「火星移住計画課」であった。もはや「計画」の名は取れて、しかも課から局に格上げされている。

 こういう変更は大きな組織ではそう簡単に起きることではない。火星移住も本格化したのだ。建前上は。宇宙人が何の目的で攻めてくるのか知らないが、通常の侵略戦争のように資源や奴隷を求めてのご来訪ならば、火星も襲うはずだと私は思うのだけれど、どうだろうね。火星で死ぬくらいなら地球で宇宙人と戦って死にたいな。でもちょこっとなら火星に行って見てみたいものがある。フォボスダイモスがどんなふうに夜空に浮かんでいるのか。


 続いての報告は中国とヨーロッパでも円盤が飛んだという話である。一同は真否をめぐって混乱しているが、高須は「本当に宇宙人はいるのよ」と平然としている。世界中がどうなるのかと不安がる部下に対しては、「知らないわよ」と来たもんだ。高須によると今やアメリカは内乱状態、欧州でも各地で紛争が勃発しているという。本当なら世界大統領の統治能力が如何に低いかの証左であろう。

 高須の弁明は、「”ともだち”は今、東京を救うことで手いっぱいなの」であった。東京だけ? 他の日本各地はどうするの。「最後の戦いということですね」とは地球防衛軍と親友隊の両長官が仲良く並んでのご挨拶である。万丈目が死んで指揮命令系統が統一されたらしい。

 久々に登場の腹心、中谷のみを連れて執務室に閉じこもりがてら、高須は新幹事長と呼ばれるのに嫌気がさしたようで、「もう“新”幹事長はやめなさい。今、私は幹・事・長。よろしくね。」と権力者の交代を印象付けた。よろしくない。いい加減、私も高須なんかの話題から撤退したいのだが、次が重要なので我慢我慢。



(この稿おわり)



マリーゴールド。マリーはもちろん聖母のことです。 
(2013年4月27日撮影)
































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