おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

見せ物 (20世紀少年 第462回)

 第15集第8話の「史上最大のショー」は、万丈目の驚きと、オッチョの驚きが同時進行で描かれる構成となっている。驚きのきっかけは同じ事柄であったが、では、二人は果たして同じ推測なり結論なりに至ったのだろうか...。

 法王が無事、教会を去った後も、オッチョやユキジの懸念は晴れない。みんなして考え込んでいる最中に、蝶野刑事は「いやいやお疲れさん」と飛び切りの笑顔で教会に入ってきた。長いこと続いた新宿騒動もこれで一件落着と喜んでいるのだが、全くこの場の雰囲気を読めていない。歩く場違いとでも言うべきか。


 それは若さのせいで仕方がないとしても、次の万博開幕式の件に関する「あとはまあ、ウチの署の管轄外なんだけど」という発言があまりに情けない。チョーさんが生きていたら、ただではすむまい。もちろん警察も役所も、無断で管轄外のことに手を出したり口をはさんだりしたら世の中は混乱する。

 だが、ここに集まる人々は法王の身の安全を案じているのであり、法王の訪日はまだ終わっていないのだ。そういう時点で、警察官が民間人に縄張りの話をしていいはずがない。伝説の刑事への道は、はるか遠い先まで続いているようだ。しかし、それに続いて蝶野刑事がもたらした新情報は、人々の耳目を驚かせた。


 友民党もやることがえげつないと刑事は語り始める。その中身は中谷報告と同じであり、万博の開会式において”ともだち”の遺体と法王を対面させるというものである。オッチョが鋭く反応し、仁谷神父は本当なのかと驚き疑うのだが、刑事によると急きょ決まったことらしい。仁谷神父は、「それじゃ、法王がいい見せ物だ」と憤慨している。本来、開会式の主賓たるべきローマ法王が、ニセモノの英雄を祀る式典の立ち合い人になってしまう。

 オッチョはこの「見せ物」という言葉にも反応を示した。それまでおぼろげだった嫌な予感が、彼の脳裏で徐々にその姿を鮮明にし始めたらしい。「まさか、俺の想像していることが実際に起きたら...」とオッチョは重い口を開いた。そして「これはまるで...」と言って絶句した。そのあとオッチョが何か言ったのか、何か言ったなら何と言ったのかは不明だが、構成上では万丈目が代弁しているようだ。


 そのころ万丈目は、”ともだち”の遺体と法王の対面について、中谷に誰が決めたんだと問いただしている。中谷は質問の意図が呑み込めずに「は?」と言うだけだったので、万丈目はもう一回、同じ質問をしなければならなかった。中谷は、「万丈目幹事長...では?」と不審気だが、幹事長は「私はそんな指示は出していな...」まで言ったところで目を剥いた。

 「そういうことだったのか」という万丈目のセリフは、先日、夜の理科室でヨシツネがフクベエ少年に語ったのと同じ言葉だな。どちらも、ろくな計画ではなかった。しかし、万丈目は「史上最大のショーになる」と喜色満面。もともと彼は派手なショーが好きなプロモーターだったし、彼がここで「フクベエは死んだふりをしただけで生きている」と思って喜んだにも違いない。それが誤解と気づいたときは手遅れになっていた。


 ところで、読者は「21世紀少年」の上巻において、フクベエとそっくり同じ顔の男が死んだことを知っている。それより少し前に、その男と対面したカンナは、さぞかし顔が似ているのだろうとか、同じような顔の影武者が何人もいるのではないかと厳しく追及している。

 だが、同じような顔の男がいることを高須や敷島教授の娘は知らなかったはずである。だからこそ、雨の夜にあれほど驚いたのだ。では、彼女たちよりもフクベエに親しいはずで、機密もより多く知っているであろう万丈目はどうだったのだろうか。これほどあっさりと「再びフクベエの死んだふり作戦」であると疑いなく信じてしまったとはどういうことか。


 彼は素顔で安置されていたころの”ともだち”の遺体にすがりついて泣いている。スプーンも握らせているのだ。それなのに、ここで「そういうことだったのか」と決めつけているということは、おそらく、そのとき死んだのは同じ顔の別人で、フクベエではなかったと瞬時に結論付けたとしか考えられない。

 この時点で万丈目は、カンナの表現を借りれば「影武者」、同じ顔の別人の存在を知っていたと考えるべきではないか。ただし後の本人の言動からして、それが誰だったのかまでは知らなかったらしい。特に、”ともだち”は複数いるとか、「二人一役」であるという認識があったら、「おまえは誰だ」とは訊くまい。

 この件については、ずっと先にも出てくるので、その時にもっと詳しく考えます。では最後に、オッチョが口にした「俺の想像していること」とは何だろう。実は私には、これが何なのか良く分からないのです。この先、もう一度、読みながら考えます。




(この稿おわり)





餌をねだるツバメのヒナ。巣の右側を飛んでいる親鳥は動きが早すぎて、ちゃんと撮影できなかった。 
(2012年8月8日撮影)




ブルーベリーは眼に良い。(同日撮影)


































.