おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

かれはいちどしんでよみがえるだろう (20世紀少年 第450回)

 第15巻の第4話は「蠢く真実」。蠢くと書いて「うごめく」と読む。春の虫虫、目に浮かぶようだ。私のような昆虫好きにはどうってことはないが、虫嫌いの人にはたまらん字面かもしれません。しかも第4話の扉の絵は、雨の中でニヤニヤ笑っている”ともだち”の絵。何が蠢いたのか、そいつは見てのお楽しみ。目撃者は子供一人だったが。

 第4話は前編からの続きで、神父二人と20世紀少年たちの打ち合わせなのだが、後半の本編は仁谷神父が一人しゃべって終わる。第66ページ、「皆さんが考えていること、私が考えていることは同じだと思います」という神父の語りで始まる。果たしてオッチョとユキジが全く同じ考えかなのかどうかは、今後の二人の言動に触れながら考えよう。


 まず仁谷神父は、「ヨシツネさん」がヴァーチャル・アトラクションで目撃した理科室での首吊り自殺のマネについて触れる。私が記憶する限り、ヨシツネを「さん付け」で呼んでくれた人は、出会ったばかりのコイズミと、「21世紀少年」上巻に出てくる国連のプロファイラーだけだ。まあ、「隊長」も敬称だけれど。

 続いて神父は、2000年血の大みそかでの”ともだち”の「死んだふり」について言及している。ビルの屋上から墜落したように見せかけた件。この二つの前科から類推して、今回も死んだと見せかけただけではないかというのが、仁谷神父の考えていることだろう。それが証拠に、再びウィルス性の出血病が流行し、世界中がパニックに陥っているではないかと彼は説く。


 その次の話題は予言について。仁谷神父が最初に取り出したのは、モンちゃんが足で集めた「しんよげんの書」の一部のコピーである。そして、今もたらされたばかりのルチアーノ神父がローマで入手した予言書の「あまりに酷似した内容」。もっとも、前者は数枚のコピーにすぎないが、後者は一冊の本だから情報量が多いらしい。

 その一つが、”東方で法王は倒れ”という一節であると神父は語る。結果から先に言うと、確かに転んで倒れたのだが、神父の心配はそういうことではない。法王は万博開幕に合わせて来日予定。それを中止するようヴァチカンの法王庁に何度も申し入れたがダメだったそうなのだ。ルチアーノ神父が察知したとおりで、教会も内部で腐敗が始まっているらしい。


 続いて仁谷神父が引用する「ばんぱくばんざい(中略)、せかいだいとうりょうがたんじょうするだろう」は、モンちゃんが入手したコピーの最後の部分だが、その次に出てくる「2015年、西暦が終わるだろう」は既出のとおり、ルチアーノ神父が入手した方の予言書に書かれているものだ。

 無宗教の日本人にとっては西暦が終わっても不便なだけかもしれないが、ヴァチカンにとっては、この世の終わりに近いのだろう。「”ともだち”が本当に生きているとすれば、世界は今、最悪の方向に進んでいる」と仁谷神父は言った。このままでは、せっかく日本にいらしても、飛んで火に入るローマ法王になりかねない。どうする。


 ところで、「しんよげんの書」は部分部分が散発的に出てくるうえに、前後関係がよく分からないものも多いので、全体像がどうなっているのかは、読者がそれぞれ解釈するほかあるまい。第16巻の106ページに出てくる「かれはいちどしんでよみがえるだろう」というフクベエのセリフが示している部分は、どのように「実現」されたのか。

 第16巻では、この直後に実際の1971年の理科室の夜が出てくるのだが、フクベエの意に反して、ドンキーは信用しないし、しかも途中で失敗しているので、とてもではないが予言の実現とはいえない出来栄え。血の大みそかの墜落事故は、ケンヂがトランシーバーで「フクベエが落ちた」と伝えた相手と、一部の”ともだち”一派しか知らないだろう。これでは預言者”ともだち”としては、影響力が弱いのではないか。


 ここは、やはりローマ法王と大観衆の目前で生き返り、満天下に「奇跡」を示すのが宣伝効果としては一番であろう。この会議のあとで、一同は法王の身の安全を確保することを第一目標において行動するのだが、相手はその程度の悪ではなかったのだ。

 乱暴な表現になるが、一法王が天に召されても、後任を選べばよいだけの話であって、いきなり西暦が終わるはずがない。だが、”ともだち”が企図していたのは、法王よりも偉くなること、すなわち現代の奇跡の体現者になることだった。それが分かったとき、事態はほとんど取り返しがつかないことになっていた。ところがどっこい、計算外。「いちどしんでよみがえるだろう」は、主人公ケンヂにも当てはまってしまったのだ。




(この稿おわり)



我が家の守り神、シーサー (2012年7月30日撮影)




新潟の山と空と雲  (2012年8月9日撮影)