おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

ともだちの顔 (20世紀少年 第355回)

 第12巻第12話の「ともだちの顔」の冒頭シーンは、第8巻の48ページ目でお面を外した”ともだち”の顔を見たケンヂが、「おまえは...」と驚愕している場面の続き。前回との関連でいうと、ケンヂ最後のトランシーバーによる通信は、その10ページほど前に出てくる「ダイナマイトをセットした。3分後に爆発する」だった。

 そう言ってからケンヂは脱出するために、防毒マスクをかぶろうとしている。そのときにトランシーバーから手を放し、驚きのあまり二度と手にすることはなかった。このためケンヂは仲間の発信する声を聴いたかもしれないが、彼が発した言葉は仲間に伝わらなかった。


 もしも伝わっていれば、”ともだち”の正体を探るために、ヨシツネやコイズミ、ユキジや市原弁護士がこんな苦労をする必要はなかったのだが。操縦席のケンヂは子供たちのこと、カミさんのことは嘘だったのかと叫んでいる。仲間がこれを聞けば、誰のことか分かったはずだ。

 それにしても、お面を外すとは”ともだち”にしてみれば、おそろしく危険な行動であった。一歩間違えば、つまり、ケンヂがトランシーバーで仲間に伝えれば正体が暴露されるのだから。あのタイミングでお面を外して顔を見せるとは、ケンヂに対してよほど強い恨み、憎しみがあったと考えるほかあるまい。「あーそ−びーまーしょ」とは、結局のところ、復讐の呪文であろう。

 
 「全部、嘘だったのか!!」とケンヂは真相を知った。そのあとは、ちゃんと言葉にもならないほどの怒りが彼を襲う。「俺の姉貴を、カンナを、おまえは、おまえが...」。そして爆発は起こった。巨大ロボットが吹っ飛び、新宿西口の超高層ビル群が爆風に巻き込まれている。

 ちなみに、当夜、巨大ロボットと偽の太陽の塔が対峙したのは、甲州街道新宿駅南口のそば、描かれている周辺のビルの姿、向こう側の道路の中央分離帯に立っているT字型の街灯という諸条件からして、西新宿二丁目の交差点で間違いなかろう。近所の東京都庁も無事では済まなかっただろうな。


 ところで、「カミさん」の話は全くの嘘としても、それでは、彼とあの3人の子供たちの関係はどうだったのだろう。クラス会のあとでケンヂがフクベエを606号室まで送り届けたとき、子供たちはフクベエにご飯を作るようせがんでいる。全く知らない相手や、嫌いな相手だったとしたら、泥酔している様子の本人ではなくて、ケンヂに頼みそうなものだ。

 フクベエの「転落事故」の直後、これはケンヂの回想かもしれないが、第7巻第10話「フクベエ」に、地下道で二人が交わした会話などが出てくる。フクベエは子供たちへのクリスマス・プレゼントらしき袋を下げて、ケンちゃんライスのレシピを訊いているのだが、これも全部、嘘だったのだろうか。


 どうも私はフクベエに対して、点が甘いような気がする。その一因は、彼が素顔で悪事を働いた場面が全くないこともあるように思う。視覚的な悪い印象がない。また、「絶交」の指令以外は、フクベエではないほうの後半の”ともだち”のような凶暴な言動も少ない。

 サンタクロースのフクベエが持っている袋には、「TOY CERATOPS」の文字が見える。トイザらスの競争相手であろう。「ジュラシック・パーク」に出て来た子供たちの大好きな恐竜、トリケラトプス(Toiceratops)に掛けた命名か。チョーさんが将平くんの誕生日のプレゼントとして、ピカブーを買ったのもこの店である。


(この稿おわり)




(上)第12巻第205頁目(2000年12月31日) 
(下)西新宿二丁目のT字路(2012年5月8日撮影)