おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

悪魔系バンド   (20世紀少年 第273回)

 2014年の秋から冬にかけて、カンナとコイズミは数日間、もしかすると数週間、学校を休んでいる。第10巻第2話の「クロスロード」は、その二人がようやく学校に戻ってからの物語。もっとも、コイズミの場合は学校よりも先に、ライブ会場に姿を現している。珍しく制服姿ではなくて私服。

 相手は、追っかけ相手の悪魔系バンド、「エロイムエッサイムズ」である。ともだちランドでかなりの精神的打撃を受けたはずなのに、こんな刺激的なところに出入りして大丈夫なのだろうか。もっとも、彼女にとっては、このバンドの曲を心の中で歌いながらバーチャンル・アトラクションを乗り切ったのだから、恩人集団でもある。

 
 私よりもやや若い世代ならば、悪魔系バンドといえば「聖飢魔Ⅱ」だろうか。初めてテレビでデーモン小暮閣下をみたとき、年齢を聞かれた彼が、10万29歳と答えていたのを覚えている。私にとって悪魔系というと「KISS」だな。今でも彼らは演っているのだろうか。ステージで火を吹いたり、「Beth」を唄ったりしているのだろうか。

 エロイムエッサイムズは、コイズミが第7巻で登場早々に、青森から仙台のツアーを追っかけて戻った直後で、次は新潟から秋田に行く予定だとトモコさんに言っている。東北方面が活動の中心地らしい。被災地にも行くべし。第10巻でも、また東北にツアーに行くと語っている。

 第7巻でコイズミは、ギタリストのダミアン吉田がかっこいいと語り、なぜならば「素敵なのよね、ネックにはいずりまわる指が」という理由らしい。ネックに指がはいずりまわるというと、どうやらブルース系というよりも、エディ・ヴァン・ヘイレンのようなタイプか。


 第10巻のコンサート会場は、バンドのメンバー同様にトランプの絵柄の化粧を施した娘たちが盛り上がっているが、コイズミは素顔である。彼女は第15巻で、再会したダミアンに「ファンクラブの会長」だったと述べているので、公的な立場上、個別のメンバーの応援は程々にしていたのかもしれない。

 しかし、その肝心のダミアン吉田がいなくて、別の男がギターを弾いている。ステージのあとでコイズミが他のメンバーに訊いたところ、音楽的見解の相違でクビになったらしい。何でも、ロバート・ジョンソンと同様、西日暮里の十字路で悪魔と出会い、魂と引き換えに悪魔の音楽を手に入れてしまったようだな。


 このため、客が引くほどに20分も30分ものインプロビゼーションをやらかすようになってしまった。やるな、ダミアン。クリーム時代のエリック・クラプトンのようだ。このため、キャッチーでメロディアスなみんなで歌えるバンドの方向性とは、食い違いが生じてしまったので解雇。

 後任のギタリストは、まだ慣れない様子で、譲二・A・ロメロという、ちょっと気の小さそうな青年。よく似た名前の映画監督、ジョージ・A・ロメロの作品は、若いころ何作か観た。この人の功績により、ゾンビという言葉が世界中に広まったのだ。


 ギタリストの交代以上にコイズミが気になるのは、ダミアンが「悪魔に見張られている」とか、「悪魔が連れ去りに来る」とか言っていたという、他のメンバーの証言であった。今の彼女の心境も同様らしく、この話を聞いたときの夢を見て飛び起きる気の毒なコイズミ。

 神様の場合は、予知夢だから時には人の役にも立つが、コイズミの悪夢は自分個人のみの記憶と恐怖に直接かかわるものだから始末が悪い。忍者ハットリくんのお面や高須が出てくるのだ。自宅でも学校でも、盗聴器や監視カメラを探すのが日課になってしまっている。ヨシツネは、すべて忘れろと言って去ったが、忘れろという命令ほど従い難いものもあるまい。


 ちなみに、西日暮里の十字路は、わが家から歩いて約10分の距離にある。それほど霊的な場所でもなさそうなのだが、いったい悪魔は何を好き好んで、西日暮里まで来たのだろうか。山手線と京浜東北線、千代田線と日暮里舎人ライナーが走っているが、いずれも終着駅ではないしなー。

 詳しい話は後にダミアン自身から聴くことになるので、それまでは謎としておこうか。コイズミは落第の危険があるので、のんびり休んでばかりもいられないのです。だが、学校に戻れば戻ったで、隣のクラスで大変な事態が待ち受けていた。すなわち、担任教師の交代と爆弾娘の復帰。いよいよサダキヨが姿を現す。


(この稿おわり)



残雪の上野寛永寺(2012年1月26日撮影)




クロスロード