おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

悪魔くん (20世紀少年 第575回)

 かつて私は、カツマタ君がケンヂたちより上の学年ではないかという根拠薄弱な仮説を立てたことがある。なぜなら私が小学生だったころ、近所や親戚に同年代の男の子の遊び友達が十数人くらいいたのだが、同年齢か年下は呼び捨てか呼び名・あだ名で呼びかけていた一方、年上は「くん」付けで読んでいたし、私自身も年下の多くから「くん」で呼ばれていたからだ。

 学年が違うなら、彼の影の薄さも分かろうというものだ。しかし、第14集でモンちゃんとケロヨンとコンチが、カツマタ君は何組だったかという議論を戦わせながら夜の理科室に向かうシーンでは、その話し振りからして、どうみても同学年である。よって取り下げ。


 春さんはダミアンの歌と演奏を聴いた感想として、「間違いない。このメロディ―ラインは彼の癖がある」と興味深い言葉を漏らした。かつてのバンド仲間だもんね。強力な証人だ。春さんとマルオの結論は一致している。「2015年、西日暮里、この時点で彼は生きていた」。本当は2014年であり、翌2015年にかけてウィルスがばらまかれたわけだが、ケンヂは無事なのか彼らにはまだ分からない。

 さすがは音楽のプロダクションの設備、立派なコンポがあってマルオがスイッチを入れた。流れ出した音楽は、ラジオから録音したものを再生したのだろう。それは「近頃各地のラジオで受信されている曲」であり、マルオは非常に受信状態は悪いが彼ですよねと念を押し、ダミアンは「間違いないです」と力強く断言した。師匠の音だ。近ごろ流れているなら、今も生きているかもしれないではないか。


 彼は名乗ったのかねと春さんが核心に迫る質問をした。ダミアンはその時の変な会話を思い出して、また力が抜けた感じになり、男に名前を訪ねたら逆におまえは誰だと訊かれたらしい。エロイムエッサイムズのダミアン吉田だと答えたところ、相手は「じゃあ、俺は悪魔くんだ」と言ったらしい。

 長男と同じ年に生まれた子に冠する騒動だったのでよく覚えているのだが、ここ東京で生まれた我が子に「悪魔」という名前を付けようとした親が、まず最初にお役所と騒動を起こし、ついに裁判沙汰になった。外国には、子供に怖い名前や汚い名前をつけて魔除けの呪いにする風習もあると聞くが、日本では雅言を尊ぶため(最近は怪しくなってきたが)親の敗けとなった。


 最近まで小学館の「ビッグコミック」に連載されていた「ゲゲゲの家計簿」によると、水木しげるさんは最初のうち紙芝居で、さらには貸本にマンガを描いて糊口をしのいでいたらしい。今でも紙芝居は幼稚園などで生き残っていそうだが、貸本屋は全滅しただろうな。

 朝の連続ドラマ「ゲゲゲの女房」は、ついに1回も観ぬ間に終わったが、そのころの水木夫妻の極貧ぶりは尋常のものではなく、税務署に確定申告に行った際に、「この収入で二人の人間が生きていけるはずがない」と担当官も信じてくれなかったとご本人が語ってみえたのを覚えている。


 貸本が漫画市場から駆逐されたのは、ケンヂ達が生まれた1959年に週刊少年漫画雑誌のサンデーやマガジンが創刊されたからだと「ゲゲゲの家計簿」にも描かれていた。「悪魔くん」は貸本に描いていたそうだが、当時のことは私もケンヂも知らないはずだ。のちにジャンプに連載されているので、その記憶が残っているに違いない。

 もっとも、水木マンガが世に出たのは、何といってもマガジンの「ゲゲゲの鬼太郎」の連載とアニメ化だろうから、水木さんは意図的にか流れに任せたのか知らないが、時代の趨勢をつかんだのだ。先ほど貸本は絶滅と書いたが、先月、杉並のブック・オフにいたら店内放送で、「当店でお買い求めいただいた品物もお売りいただけます」と言っていたから、形を変えて似たようなシステムが愛用されているらしい。

 ダミアンは自信がなさそうに語っている。彼は若いから「悪魔くん」などと自己紹介されても、何が何やら分からなかったのであろう。だが、その男も出鱈目を述べたのではなく(だから、「じゃあ」なのだ)、エロイムエッサイムというのが、そもそも悪魔くんが本物の悪魔を呼び出すときの呪文なのだから、所属していたバンド名の出典を知らないほうに責任がある。



(この項おわり)




秋の西日暮里公園 (2012年12月20日撮影)




 Didn't nobody seem to know me babe
 Everybody pass me by
 Standing at the crossroad babe
 Rising sun going down

    誰も俺のことを知らないようだった
    誰もが目の前をとおり過ぎていく
    十字路に立ちつくしたまま
    日は昇り また沈んで 地球の上に夜が来る

    ”Cross Road Blues” by Robert Johnson

















































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