おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

エンパイア・ステートビル     (20世紀少年 第165回)

 第7巻の144ページ、拳銃を構えて突入したオッチョたち3人を待っていた光景は、いくつものモニター画面を見ながら、盛り上がっている男たちだった(大勢いるが、女が描かれていない)。全員そろって、オッチョから盗んだ意匠、「ともだちマーク」のTシャツを着ている。

 なんと彼らは、巨大ロボットによる被害状況の実況中継を楽しんでいるのだ。ビルが壊れただの、いい感じで炎が上がっただのと叫んでは大笑いしている。すでに”ともだち”一派は、この物語が始まった当初のサークル活動的な生ぬるさとは、すっかり縁を切った模様であり、集団発狂的なテロ組織となっている。


 オッチョが威嚇射撃をしても、ユキジやモンちゃんが怒鳴りつけても、一向に効き目がない。モニター機器の操作をしている男も、オッチョに拳銃を突きつけられてさえ、へらへら笑っている。薬物中毒か? いや、すでに、ともだちコンサートのときもこうだったな。

 画面を観ていたオッチョが、モニターの一つに人影を見つける。ユキジも、その人物がノート型パソコンのようなものを持っているのを見た。とうとう、リモコンが見つかったか? オッチョはケンヂに無線で連絡を取り、その人影の背景に見えたビルを、「エンパイア・ステートビルのような形をした建物」と表現している。


 オッチョやケンヂや私が小学生だったころ、世界で一番高いビルはニューヨークのマンハッタンにあるエンパイア・ステートビルであった(ちなみに、日本一は丸ビルだったのだよ。今は昔)。先刻、被災したロックフェラー・センターより高い。その独特のデザインが、二人の会話を成立させたのだ。

 エンパイア・ステートビルは、しかし私が大人になったころには、ワールド・トレード・センター・ビルに、「いったん」高さを抜かれた。なお、オッチョが見つけ、ケンヂが目指したビルは、新宿の南口に実在し、「NTTドコモ代々木ビル」という。その名のとおり、実際は渋谷区代々木にある。私はこのすぐ近くで働いたり飲んだりしていた。


 かくして、彼らはリモコンの在りかの候補地を突き止めた。しかし、これが相手の脚本通りに動かされていたとは、思いもよるまい。オッチョの炯眼とケンヂの行動力は、悪党の巧みな誘導により、彼らをフクベエの待つ舞台へと導いてしまったのだ。


(この稿おわり)



エンパイア・ステートビルのような形をした建物。(2011年7月25日撮影)