おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

闇の奥     (20世紀少年 第134回)

 第4巻の199ページに戻ろう。物語における「現在」、つまり2000年。巨大ロボットを「ぶち壊しにいく」ため、ケンヂとオッチョが地下道を歩いている。怪しいドアなどを見分けながら探し歩くケンヂを見て、オッチョが感心している。すっかり地下に慣れた様子であり、地下の帝王もまんざら誉めすぎではない。

 二人は子供のころ、軟式ボールが洞窟の奥から跳ね返ってきた思い出話をしているが、オッチョの記憶では、近所のおじさんがキノコ作りをしていたとのことであった。かくて軟球事件は一件落着したはずだったのだが...。


 その話をしながらケンヂが錠を器用に外すと、基礎工事中の建物の地下のようなところに出た。そこはオッチョがタイの山奥の寺院で、元放火犯に見せられたスライドにおいて、巨大ロボットの背景にあった施設だった。しかし今、そのロボットの姿はなく、代わりにビデオのセットが置いてある。

 今や古道具になってしまったVHSのビデオ、再生してみたところ、顔の見えない男性らしき上半身が映し出され、以後すっかりお馴染みのセリフになる「ケンヂくん、遊びましょ」を間延びした声で繰り返す。そして、「早く仲間を全員集めないと君の負けだよ」と言われるが、ケンヂは例によってその意味を忘れている。


 そこに背後から軟球が飛んできた。少年時代のこの思い出は、ケンヂかオッチョが誰かに喋ったとしても、小学生のことだから身近な子供にしか伝わるまい。しかし、これを覚えているとは、よほど記憶力が、というより執着心が強い相手である。最近使われなくなった言葉だが、パラノイアだな。

 ボールにつられて振り向いた二人の目の前、近づいてはいけない「闇の奥」に、とうとう巨大ロボットが姿を現している。これは本物か、それとも映像か? 最後のページの消えてゆく姿かたちは、空気が抜けて行く風船のように何とも不自然に萎んで傾いているのだが、ズーン、ズーンという足音らしき音響からして、本物なのだろうか。


 でも、なぜ、二人がここに居るのが分かるのか。どこへどうやって去っていくのか。まあ、あまり詮索しても意味がなさそうだな。ともあれ、ビデオの声は語り続ける。「遊びの時間が始まっちゃうよ。早く9人、揃えないと」。遊びに誘っているのだ。子供のころは、そんな勇気などなかったのに。9人の意味は次の巻に出てくる。

 悪党にとって、すでに遊びの時間は始まっている、と言いたいところだが、ケンヂ相手の遊びである以上、彼がその気にならねば目的は果たせない。ここで第4巻が終わる。いよいよ次は前半の見せ場の一つ、血の大みそかを迎える第5巻である。何だか今日は、あらずじの紹介だけで終わってしまった。


(この稿おわり)



ふたご。(2011年10月12日撮影)