おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

このマークを俺たちのもとに取り戻そう (20世紀少年 135回)

 第5巻は、法師蝉の鳴く夏も終わりの草っ原で、ヤン坊マー坊に痛めつけられているケンヂの姿で始まる。「20世紀少年」は、かなり細部まで構成が出来上がってから書き始められたものと思う。最初のころと終わりのころに、同じ場面が分割されて出てくる。今回と次回も、それに当たる。

 事の発端は、ケロヨンがおやじさんの平凡パンチを盗み出して、秘密基地に持ち込んだところからだ。かつて週刊プレイボーイと双璧をなした平凡パンチも今はもうない。しかし、ケロヨンの父さんも可愛いものを読むな。


 第21巻の第9話、「この旗のもとに」は秘密基地の中で、ケロヨンに加えてマルオ、ヨシツネ、コンチの計4人が平凡パンチに興奮しているところから始まる。しかし、お楽しみも束の間、再び「恋の季節」を唄いながら、ヤン坊マー坊がやってきて、とうとう秘密基地が見つかってしまう。

 ケロヨンは雑誌を握りしめて逃げた。続く第10話の冒頭に出てくるように、ヨシツネは草陰に身を隠した。コンチはどこかに隠れたか逃げたか。彼の隠れん坊の上手さについては、同巻36ページのシーンをご参照。かくして、例によって「逃げ足の遅い」マルオが双子に捕まり、「フルチン」かつ「人間ロケット」にされて基地の上に投げ出されてしまった。


 そこへ戻ってきたケロヨンが参戦するが双子の前に敵ではなく、マルオとケロヨンが倒されて泣いている姿を、隠れていたヨシツネが目にする場面が172ページ目に出てくる。この続きは省かれているが、ケロヨンとマルオは去り、ヨシツネひとりが壊された秘密基地の前で泣いているのを通りかかったケンヂが見つけたのが、第4巻の第4話「愛と平和」の始まりのシーン。

 時は1969年、5年生の夏。ケンヂはヨシツネに対してやや冷たくて、いつか見つかれば壊されるのは分かっていたし、最近は集まりも悪くてオッチョも来ないしと言って、地球の平和より宿題が大切だと言い残して去ってしまう。しかし、彼の行く先には、まだフルチン姿のままのマルオが、鳥居の土台と思しきところに座りこんでいた。


 双子に強制されて基地を壊したと泣いているマルオを見て、ケンヂはひとりヤン坊マー坊に決闘を挑む。この先はすでに見た。ヨシツネとマルオはオッチョに加勢を求めに行く。一旦断ったオッチョが、「ラブ&ピースは一時中止だ」と高田馬場堀部安兵衛のごとく決闘の地に駆け付けたまでは恰好良かった。

 その続きが、第5巻のオープニングである。ケンヂもオッチョも殴り倒されて必殺四の字固めをかけられ、あわれギブ・アップしようとしたケンヂの目に映ったのは、援軍の到来であった。マルオとヨシツネ、そしてドンキー。


 最後の語り部は、ユキジであった。第21巻の185ページ目では、道を歩いていた彼女に、旗を担ぎながら俊足を飛ばしてきたドンキーが、「これ、原っぱに持ってきて」と軍旗を託して走り去ってしまう。ユキジが決戦場に辿りつくと、すでに敗色の濃い戦塵にまみれながら、今は亡きドンキーがヨシツネに叫んでいる。「泣いてないで、あれを立てろ」と。

 「ケンカの決着はどうなったか覚えていないけれど」とユキジは語る。彼女の話を聴いているのは、すでに五十路を超えたオッチョとヨシツネ、ヤン坊とマー坊。「何度倒されても、ヨシツネはそれを降ろそうとせず、そこに立てようとした。私達の、あのボロボロの旗を...。」


 第1巻で基地の解散式にドンキーが持ってきた、缶に収めて埋めるための旗は、このときのボロボロの旗とは違うようだ。もっと大きくて立派な旗を作りなおしたに違いない。

 ともだち暦3年、再びこの旗を空高く掲げたのは、ケロヨンとその息子、マルオとキリコだった。最後もケロヨンで締めくくろう。「このマークを取り戻すんだ」。彼にはそう宣言せずにいられない事情があった。なぜか。第5巻の続きに戻ろう。


(この稿おわり)



蔦の葉もすっかり色づきました。 (2011年10月13日)