おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

ケンヂうさぎ     (20世紀少年 第126回)

 初めて単行本で「20世紀少年」を読んだとき、第4巻の表紙を見るとピンクのウサギのかぶり物(ただし首から下)を身にまとったケンヂがVサインなどしているので、「何じゃい、これは」と思ったのだが、中身を読めば彼の気の毒な事情が分かる。

 待ち合わせ相手のオッチョは、「携帯PHS 全機種完全無料 早い者勝ち」という、今となっては信じがたい内容の看板の前に佇んでいる。


 もう十数年前になると思うが、渋谷の商工会議所か何かの関係者が、「われわれは都市開発の方針を誤った」とテレビで悲壮な顔をしていたのを覚えている。ちょうど、オッチョが戻ってきたころのことだ。

 顔を黒く塗りたくって暑底のブーツをはいている娘たち、茶髪金髪の若者たち、こういう「ガキのたむろするところ」というイメージが、当時の渋谷に貼り付いてしまっていた。今は知らない。今でも近寄りたくない。

 渋谷は最近、センター街を改名して、バスケットボール・ストリート(通称、バスケ街)にすると発表している。バスケとは何の関連もないらしい。そういえば、オッチョはかつてバスケットボールの選手だったな。


 ケンヂがそんな場所を再会の地に選んだのは、彼がそのあたりで働いていたからでもあるし、指名手配中なのでウサギの格好は街中を出歩くのに好都合だし、それにオッチョを連れていくべき場所に近くもあったからだ。

 この物語は、同じ顔ぶれの少年時代、中年、初老と三つの年代にかけて展開することもあって、再会のシーンが多い。その中でも群を抜いて珍妙なのは、このケンヂとオッチョが再会する場面だろう。十数年ぶりか二十年以上、経っているか。一方はショーグン、他方がウサギ。


 ケンヂの異様な格好を見ても、あるいは、その指名手配の写真を見つけても、さすがはオッチョ、全く動じるところがない。「遠藤健児 身長175cm位 中肉 面長の輪郭 目つき鋭い」。本人に言わせると、ひどい写真。

 容疑は城南医科大学爆破事件と、民友党本部襲撃事件。まさに立派なテロリストだが、後に本人が語ったことろにろれば、前者は細菌兵器の開発施設の破壊、後者は情報収集のためフロッピー・ディスク(颯爽と登場したFDも、今や過去の遺物か...)を盗むためだったが、いずれも戦果は充分でなかった。


 ケンヂが掲げている広告用の看板には、「パパイヤ天国」という彼の勤め先の名前が書いてあるが、これについては後に登場するとき深く考察がなされるであろう。

 ウサギは宣言する。「これが現実だ。これが地球の危機を救う正義の味方だ」。かつて、地球の危機をウサギが救った例を、私は一つしか知らない。後にその物語も出て来るので、早速また脱線しよう。手塚治虫「W3 (ワンダースリー)」である。


(この稿おわり)



都会の夕日。他人行儀になぜ赤い。(2011年9月30日撮影)