おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

W3 (20世紀少年 第127回)

 「W3」(ワンダースリー)は手塚治虫が少年誌に連載した漫画で、後にテレビ・アニメにもなった。私は漫画を覚えておらず(漫画は有料だったので滅多に買えなかったのだ)、テレビのアニメ−ションで見た。もっとも、小学校中学年の同級生と話題にした記憶があるため、再放送だったかもしれない。車のタイヤ状の乗り物で転がって移動する人たちであった。

 その筋はどうかというと、1960年代の地球では戦争に継ぐ戦争で人々が殺し合っている世界であった。これは本当で、子供の私でも日常的にテレビのニュースで、ベトナム戦争、中東紛争、ソ連チェコスロバキア侵攻などを観ていたのだ。アフリカでも中南米でも、米ソ等に操られたプロキシー・ファイトが頻発していた時代である。


 「W3」の世界では、銀河連盟とかいう国際機関ならぬ星際機関ともいうべき連合組織があって、わが銀河系のあちこちに住んでいる多種多様な人間たちが集まって会議を開き、地球の人類は野蛮でどうにもならんということになり、ついては、地球時間で1年間、現地調査団を派遣し、その詳細報告をもって最終的な処分を決めるという欠席裁判が行われた。

 優秀な3名のパトロール隊員が選ばれた。ワンダー・スリーは、この3人のチーム名なのだが、地球人種とは外見が違いすぎるので姿を変える必要があり、でも人間に化けてもすぐにバレるので、動物すなわちウサギ、カモ、ウマに変身した(もっとも、動物になってもバレている)。


 手塚漫画は、大団円的なハッピーエンドで終わることが少なく、前向きな意味合いを込めたエンディングであったとしても、だいたい主人公や主役格が死に絶えたり破滅したりして終わることが少なくない。

 しかし、このW3の結末は実に良い。前回触れたように、主にW3隊長のウサギの判断が地球を救うことになるのだが、それだけではない凝った構成になっている。

 特に、3名のメンバーのいわば後世ともいうべき、時空を超えた生まれ変わりを描いた結末は、古代インド哲学の輪廻転生を思わせる抜群の出来栄えで、しかも同様のモチーフを扱う「火の鳥」のような重さはない。ユーモラスで洒脱である。絵柄やトリックが如何にも少年漫画であるせいか、評価が低すぎるように思う。


 W3は「21世紀少年」に出て来る。最後の最後だ。いずれまたその回で詳しく触れるが、バーチャル・リアリティーの中で、五十代のケンヂが十代のケンヂに、反陽子爆弾を知っているかと尋ねたとき、少年の答は、スーパージェッターとW3に出て来るから知っているというものだった。

 確かにW3には、冒頭から反陽子爆弾が出て来る。これが黒くて丸くて、ともだちが敷島教授に作らせた巨大ロボットと、ちょっと似ている。ケンヂが「よげんの書」に描いた本来の巨大ロボットに似たロボットも、空飛ぶ円盤も出て来る。しかも「リモコンでも操縦できる」。劣勢に立たされた者共が、知恵と勇気で地球を救うところも似ている。


 とはいえ、こんな風な設定のマンガや子供向けのお話は、他にも当時たくさんあったから、「20世紀少年」が主に「W3」をベースにしているとは思わない。むしろスーパージェッターの影響のほうが強い感じがする。

 W3のウサギ隊長は、やむを得ないとはいえ宇宙のどこかに反陽子爆弾を捨ててしまった。そういえば、「21世紀少年」も、最後に「反陽子ばくだん」(本物かどうかも分からないが)がどうなったかについては触れられていない。反物質は、理論的にはビッグバンのエネルギー源になったほどの危険物です。どうか誰かが踏んだりしませんように。


(この稿おわり)



私は青空に浮かぶ雲も好きだが、なぜかクレーンも好き。絶好の組み合わせ。
(2011年9月9日撮影)