おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

10 things to learn from Japan (20世紀少年 第649回)

 今回と次回は物語の感想文から逸れる。今日はあの日だから。ご存じの方も多いと思うが、表題は東日本大震災が発生したあとで被災地に入った人々が目撃した現地の様子を、どこかの誰かが書き纏めてネットに拡げたものだ。原文は英語で後に掲げるが、まずは拙訳を載せます。日本から学ぶべき十の事柄。


その1。落ち着き。 取り乱した騒ぎや慟哭する姿は全く見られない。悲しみそのものが昇華されている。

その2。威厳。 水や食べ物を並んで待つ人々の規律。暴言も無礼もない。

その3。能力。 例えば、信じがたいほどの建築家のそれ。建物は揺れたが倒れなかった。

その4。品位。 人々は当面必要なものだけを買った。誰もが何かを手に入れることができるように。

その5。秩序。 店に略奪はない。路上に警笛や追越もない。思いやりだけがある。

その6。犠牲。 原子炉を海水で冷却するため、50名の作業員が現場に戻り、そして留まった。彼らはいかに報われるのか。

その7。優しさ。食堂は値下げした。ATMは警備抜きでも無事。強者が弱者の面倒をみた。

その8。訓練。 お年寄りも子供も誰もが自分たちのなすべきことを弁えており、そのとおり行動した。

その9。報道。 現場報道でありながら驚嘆すべき自制が働いた。扇情はない。落ち着いた情報提供のみ

その10。良心。  ある店で停電が起きた。お客はみな品物を棚に戻し、静かに立ち去った。


1. THE CALM - Not a single visual of chest-beating or wild grief.
Sorrow itself has been elevated.
2. THE DIGNITY - Disciplined queues for water and groceries.
Not a rough word or a crude gesture.
3. THE ABILITY - The incredible architects, for instance.
Buildings swayed but didn't fall.
4. THE GRACE - People bought only what they needed for the
present, so everybody could get something.
5. THE ORDER - No looting in shops. No honking and
no overtaking on the roads. Just understanding.
6. THE SACRIFICE - Fifty workers stayed back to pump sea water in the N-reactors. How will they ever be repaid?
7. THE TENDERNESS - Restaurants cut prices. An unguarded ATM
is left alone. The strong cared for the weak.
8. THE TRAINING - The old and the children, everyone knew exactly what to do. And they did just that.
9. THE MEDIA - They showed magnificent restraint in the bulletins.
No sensationalizing. Only calm reportage.
10. THE CONSCIENCE - When the power went off in a store, people put things back on the shelves and left quietly.


 サイトによって細部が異なるものもあるが、大意に影響はなさそうだ。うちの新聞によれば震災発生直後から、これは「世銀やIMFはもとより世界中を駆け巡って」いたらしい。報道やネットによると、一部の不心得者が火事場泥棒をしたり、避難所で諍いが起きたりしたらしいが(そんなことは平時でもある)、全体として外国人が目を見張るような状況が展開されていたのだ。

 これは東日本大震災のときだけではあるまい。阪神・淡路でも中越でも他の無数の天災においても、人数の多寡はあれど被災者は同じように振る舞っていたはずだ。今回は甚大な津波被害と原発事故があったため、海外からの報道や援助の関係者が活発に動いたので特に目立ったのだろう。


 被災地の皆さんは、意識的に自らや周囲を叱咤激励して行動したのではあるまい。ほとんど無意識に、あるいはわずかに意識しての部分も含めれば習慣によってと言ったほうが適切なのだろうが、家庭や学校や職場で学んできたどおり自律的に動いたのだろう。遠い昔からこの火山列島で暮してきたご先祖すべての知恵と誇りの集積なのだ。

 ここ東京では多数の帰宅難民が出た。私は運よく自宅事務所で確定申告など会計の作業中だったのだが、家族親戚知人はその大半が平日だから会社で働いていた。あるいは学校にいた。みんな暗いオフィスで朝まで過ごしたり、何時間もかけて自宅まで慣れない夜道を歩いたりしたが、事件事故に遭った話は一つも聞かない。


 復旧は遅れている。今も30万人以上が避難中だ。国は何かしているのだろうか。ほとんど現場任せではないかといった私の印象は間違っているのだろうか。先月旅した益子町の資料館はまだ家屋の修復工事中だったし、大洗町の護岸工事も終わっておらず、前にも書いたように風評被害で漁業の町は深刻な打撃を受けているらしい。

 ろくろを回したり海で魚を獲っているような人たちは愛想がなさそうだという偏狭な私の先入観を裏切るかのように、旅先ではどこでも親切にされ、笑顔で歓迎された。一時期は街中で元気をなくしていたらしいが、人々はしなやかに立ち上がり、新たな生活を営み始めている。五年後十年後も、きっと世界が日本から学ぶことがあるだろう。



(この稿おわり)




上: 益子焼の登り窯 (2013年2月17日撮影)

下: 大洗の魚市場にて、ヒラメの水揚げ (2013年2月18日撮影)
















































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