おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

ユキジちゃんこそ女 (20世紀少年 第648回)

 第20集の26ページ。ケンカの元はケンヂ達なんでしょと訊くキリコに、ユキジは「別に」と答えている。その前の「ひどいわね、女の子相手に」という発言に対してもユキジは「別に」とエリカ様の先祖のような反応をしているから、彼女の主観においては、キリコの指摘は的外れであるらしい。

 だが次の「あのコたちと付き合わないほうがいいよ。ろくなことがないから。」という姉の忠告には、ユキジも「それはそう思う。」と答えて二人の少女は満面に笑みを浮かべている。そう思うなら付き合わなければよかったのだが、三十代になっても五十代になっても「あのコたち」との付き合いは続き、事実ろくなことがない。


 キリコは薬品をいろいろ持ち歩いているようで(もともと女医さんの資質があったのだろう)、よし、あとはバンソウコウだと仕上げにかかっている。そんな彼女を見ながらユキジは「あこがれちゃうな。あたしと大違い。キリコさん、女の人って感じで」と言った。私も異論がないのだが、不思議なことにキリコは「何言ってんの、ユキジちゃんこそ女だよ」と否定している。

 驚くユキジに、さらにキリコはバンソウコウを貼りながら、「あなたみたいになりたいもん。」と言った。さあ、ユキジのどこが憧れの対象になるような女の美点なのであろうか。まさか、傷だらけや喧嘩好きではあるまい。一人、読書や顕微鏡で過ごすキリコから見て、外で走り回るユキジが羨ましいというのも分からないではないが、この当時の一般的な「女らしさ」とは程遠い。


 キリコはすでに男女均等の世を予見していたのであろうか。このころの女の子の「ゆめ」といえば「マンハク」に行くことなどでは決してなく、お嫁さんになるか(麻薬Gメン時代のユキジが好例である)、さもなくば美女ならではの職業、例えばスチュワーデスとかバレリーナとかいう遠大な夢であったろうと思う。

 だがキリコの目指す微生物の研究や医療の道は、男と張り合い続ける人生が待っているだろう。ユキジは親代わりの祖父の薫陶を受けて、一人で生きていく強さを身に着けている。これからの女はこうじゃなくちゃというのがキリコの思いであろうか...。


 この二人のうち、一人が生みの親、一人が育ての親になってしまったのがカンナである。ああいう風に育つのも無理はない。さて、場面はともだち暦3年の道場に戻る。キリコの写真を見て、カンナはもちろんヨシツネもオッチョも驚いている。

 この写真は一体?とオッチョが訊いているのは、行方不明のはずのケンヂの姉のスナップ写真が、どうやら最近撮られたもののようだからだ。その事情は、この道場の一部屋に「えっこらせ」と歳相応の掛け声とともに再登場する市原弁護士が説明してくれます。




(この稿おわり)





昔の家ならではの階段箪笥。益子参考館にて。 (2013年2月17日撮影)












































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