ダニー少年の町を出て、ケロヨンの営業用車両はルート66を北上したらしい。何故この道とこの方向を選んだのかは不明であるが、蛙ならではの野生の嗅覚であろうか。そして、行く先々でケロヨン親子とダニーは、同じような被害に遭った町を見たようだ。
第15集の175ページ目、ケロヨンの車は食事のためか、アメリカ合衆国ミズーリ州にある「BILLY'S DINER」というレストランに停まった。店内のテレビで、ミシガン湖畔のMGC製薬という会社の工場が火事で、懸命の消火活動が続けられているというニュースを息子が見上げている。父親は、店長と思われる大男と大事な話の最中だ。
店長によると、お客のトラック運転手たちの何人もが、防毒マスクのセールスマンが北に向かって歩いているのを目撃したのだという。ケロヨン達はニューメキシコ、オクラホマ、カンザス、ミズーリで、ルート66沿いの町がウィルスの被害に遭っているのを観てきた。防毒マスクの男も同じ道を歩いている。これだけの情報で、そいつがウィルスをばら撒いて歩いているのだとケロヨンは性急にして、おそらく正確な結論を出した。
各被災地は歩いて1週間ぐらいの間隔にあるらしい。そんなに歩く奴がいるかよと店長は常識的なことを言うが、ケロヨンは自説を曲げない。それじゃまるで子供のいたずらじゃねえかと店長は言う。この漫画で何度も繰り返される返事をケロヨンもすることになった。「子供のいたずらなんだよ」。蛙帝国の話もしようとして止めている。そこから始めたら、長い長い話になってしまう。
問題は、最後の被災地であるホールタウンのあと、ぴたりと被害が止まった理由が分からないことだ。店長は歩くのに疲れたんじゃないかと一応、話を合わせているのだが、もちろんバカにされているのが分かっているケロヨンは「うー」 と唸ったまま結論を出せず、自らの目で確かめるため北に向かうことになった。
危険な調査となろう。ついては、ガキ共を預かってくれ、預からんと押し付け合っているうちに、怯えた様子の息子から「何がすごいのが来たよ」という報告があった。みれば巨大なバイクに乗った暴走族のような人たちである。店長は強盗と思ったらしく、銃を取りに行ってくると取り乱している。
丸腰のケロヨンは「日本のソバ屋、なめんなよ」と言ったが、全く効果あるまい。だが幸い相手に敵意はなく、族のヘッドらしき男は、カプセルのようなものを一つ取り出して、このあたりに被害は出ていないかと言う。ワクチンであった。彼らも全滅しかかっていたのだが、これで助けられたのだそうだ。
ダニーが「日本人の女の人にもらったんだね」と気付き、ようやく話が通じてきた。男は「ああ」と肯定して、俺たちは「聖母」と呼んでいると言った。ごく大雑把に言うと、聖母マリア様はカトリックでは聖人であり、単独でも信仰の対象になることもあるらしいが、プロテスタントにおいては、聖書の記載どおり、只のイエスの母である。族の皆さんはカトリック教徒なのであろうか。
そもそも、「しんよげんの書」を書いたとき、なぜフクベエや山根は「せいぼ」を持ち出したのだろう。当時のマンガやアニメで聖母が出てくるのかあったかどうか、思い出そうとしても駄目でした。
二人はカトリック教徒だったのだろうか。多分違うな。もしもそうなら、「てんごくかじごくのどちらかをたずさえてくるだろう」とは書くまい。「聖母たちのララバイ」が流行ったのも、ずっと後のことだしなー。
そもそも私にとって降臨といえば、ニニギノミコトの天孫降臨を思い出させるのみであり、マリア様が降臨するというのは妙な話に聞こえる。ムリーリョに「無原罪の御宿り」という絵があるが、イメージとしてはこんな感じなのだろうか。しかし、まるで少女マンガのようなお顔。
私の理解によればマリアやイエスは今でいう中東の出だから、例えば最近のニュースで良く見るシリアの人たちのような外見だったと思うのだが、白人が描く絵ではことごとくと言ってよいほど彼らの肌は白い。いつかアメリカの美術館で白人のイエスを絵を観ていたら、隣にいた白人のおじさんが「彼はアジア人だろ?」と話しかけてきて、私たちは気が合った。
メキシコで見かけたマリア様の絵もちゃんと現地人の顔をしていたし、南アフリカ共和国で見たイエス様の絵も見事に黒人であった。日本の仏像もインド人には見えないもんね。人類は、せめて外見だけでも自分と同じ人種でないと偶像崇拝ができないらしい。
ケロヨンが、その聖母はどこにいるんだと訊くと、ワクチンが残り少なくなったので、彼らの仲間が大量生産するために彼女をミシガン湖畔のMGC製薬工場に連れていったという。テレビで実況中継をしている場所ではないか。火災のライブ。出火の原因は不明であり、事故かもしれないしテロかもしれないと報じている。
なんてこったと族は言った。奴らがやったんだとケロヨンは言った。ケロヨンは一人でソバ屋のトラックに乗り、子供たちは無視、「キリコ姉さんがいるぞ、ケンヂ」と気合いを入れて発車した。ダニーとケロヨンの息子は、族のみんながバイクの後ろに載せてくれた。敵味方の関係者一同が、ミシガン湖畔に集まろうとしている。だが、その後の様子はまだ少し先まで待たねばならない。
(この稿おわり)
上: わが家の朝顔
下: わが家のオリーブの実 (今年、初めて実を結びました)
(2012年9月2日撮影)
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