おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

永遠の0 【前半】  (第1120回)

 この小説を買ったときのことは覚えている。講談社文庫の奥付が2013年となっている。作者の百田尚樹氏というお方が、本屋大賞というものを受賞したというので好奇心を持ち、そのころちょうど、出張か旅行で厚めの文庫本を買いたいなと思ったときに、駅の売店で売っていた。

 読んだときの感想は、娯楽小説として、読ませるなと思ったのを覚えている。放送作家だそうで、章立てや構成が上手い。一話完結風になっていて、それぞれ語り部が違うなど毎回のお楽しみがある。テレビ・ドラマの作りと似ている。整備員や通信員といった軍属の役割もいい。


 当時はまだ今ほど改憲だ軍隊だという無粋な話題が、それほど世を賑わしてはいなかったと思う。それより震災の津波被害や原発事故のほうが、まだまだ大変なころでした。百田さんの小説はこれしか読んでいない。今回読み直すまで、「ももた」さんだと思っていました。私はテレビも殆ど全く観ない。

 そういうわけなので、あまり存じ上げない人だが、時々ネットでお騒がせになっているらしい。私は彼の憲法や軍備や緊急条項に関する意見に与しないし、近隣国への態度も違和感がある。本来なら読書一回で、擦れちがったままのはずだったと思う。


 それが今回、わざわざ本棚から取り出してきて再読したのは、陸軍の下士官だった伯父の戦死のことを調べている途中、海軍の専門用語や戦場名がよく分からなくて参った。特に、「坂の上の雲」が愛読書なので軍艦のことはある程度は調べて知っているのだが、航空隊の知識が全くないので困っていたのだ。

 この「永遠の0」は、舞台回しの姉弟が、私と同様、先祖の軍歴を調べているのに、戦争のことを殆ど知らないという設定になっているので、入門書として分かりやすい。ついでに、テレビ東京のTVドラマも観たし、勢いで東宝の映画まで借りて観た。


 書かれた当時はともかく(映画もドラマも含め)、この内容・表現だと今となっては、右や左の旦那様から、「特攻隊を馬鹿にしている」とか「戦争を美化している」とか、賛否両論かまびすしいだろう。

 私自身は映画や小説で軍記物語を楽しんできたし、伯父は神風とは無縁のまま死んだので、この作品もエンターテインメントだと割り切って読んでいる。フィクションである今のうちに、楽しんでおかなくては。特に主人公の宮部は、陸海の違いこそあれど、伯父と似ているところがあって、まず生没年が殆ど一緒。

 さらに最初の出征先が中国戦線で、そのあと一旦日本に戻り、最後は太平洋で死んだ。ほんの数日間の結婚だったというところまで同じなんだ。ただ、うちの伯父と伯母には子がなかった。このため甥の私が老いてから調べている。


 物語の前半に出てくる井関老人が気に入っている。良い役は、演るべき役者を呼ぶようで、映画では重篤な病の床に沈んでいる橋爪功が、また、ドラマではベッドで上品に正座している近藤正臣が丁寧に、ときどき力強く語る。

 後半の立役者は、元やくざの景浦。田中泯は、メゾン・ド・ヒミコ以来。十年に一度で腹いっぱいの迫力。私以上の年代の大阪生まれにとって、景浦が戦争へという設定は、特別の感慨を呼ぶものではないかと推測する。この男は、作者の代弁者でもあるようだし、宮部の合わせ鏡のようでもある。


 この作品が答えを出していない難問、読者が自分で考えろと投げられている課題、すなわち、なぜ宮部は特攻を志願したのかという点については、この景浦の証言でだいたい見当がつくと私は思っている。まあ、この点は人ぞれぞれでしょう。次回、私見を書きます。

 小説では比較的はっきり分かるようになっているが、映画では妻子を救ったもう一人の人物が、ちょっとした謎のまま終わっている。小説では、その人の部屋には何の調度もないのだが、映画には刀が出てくる。誰かの血を吸ったものであるらしい。





(つづく)




テニアンの海。伯父の戦死地。
(2017年1月13日撮影)












 この手 伸ばして 空に進み 風を受けて 生きて行こう
 どこかでまた巡るよ 遠い昔からある場所

       「Hello, Again  〜昔からある場所〜」  
        
                  MY LITTLE LOVER











































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