おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

あたし賭けには強いの  (第1119回)

 コミックス第18集に出てくる遠藤カンナのセリフを借用しております。語った相手のオッチョおじさんは、その実績を知っているため黙ってうなずいたが、直後に別件の大騒ぎが起きて、ギャンブルは延期になった。

 その実績とは、第9集に出てくる「JUMBO」という名のカジノにおけるカンナの一人勝ち騒動のことだ。今日はカジノの話題です。きっかけは政府が話題を提供してくれたからで、先月末に「特定複合観光施設区域整備推進会議」の報告書が出た。副題は、「観光先進国」の実現に向けて、とある。


 何のこっちゃと思う人は健全です。これは、カジノ法の実施計画のごときものだ。最近は、テロとか共謀とか集団的自衛権とか、肝心のキーワードを法律名に含めないという奇癖がこの国では流行っているのだ。美称は、IR法。

 そもそも、日本はすでに観光先進国と胸を張って言える国だろうに、これから実現を目指すとは観光業者のみなさんに対し非礼である。では何を推進するかというと、博打のご開帳でございます。複合観光施設とは、嘘ではない名前だが、カジノ無しでは許可は出まい。


 上記の漫画のカジノは、蝶野刑事の説明によると、東京都が開発しようとしたが知事がリコールされて、建設計画は途中で暗礁に乗り上げ、続いて、マライアさんによれば、施設は丸ごと外国人マフィアに買い取られた。設定上はタイ・マフィアと中国マフィア。正確な位置は不明だが、たぶん新宿で、首都高らしき高架があるので甲州街道沿いか。


 カンナたちがカジノの中で出会った着流しの渡世人風情は(映画では平田満だったねえ)、カジノというものの実態を一言で説明している。「東京湾で妙なものが釣れて漁師が困ってる。指先と顔をきれいに切り取られた死体だ」そうだ。

 私が何度か出かけたラスベガスは、砂漠土漠のど真ん中にあるため、海ではなく砂の下に埋めておくそうだ。そうなりたくなければ、カジノで金を借りるなと、最初に出かけたときアメリカ人たちから言われた。連中にめずらしく、真面目に忠告された。


 当時のカリフォルニアのキャッシュ・カードや、クレジット・カードのキャッシングは、一日、300ドルが引き出しの上限で、それ以上は銀行の機械が動かない。しかし、ラスベガスで試してみたら、1000ドルくらいまで出た。たぶん無制限だろう。

 カジノで儲かるのは、ごく少数の(その日だけは幸運な)客を除き、当然ながら主催者のほうである。「親の取り分」やらショバ代はいわば、自動的に入って来る。だから、ラスベガスのホテルは宿泊も廉価だし、安い食べ物が24時間、ビュッフェで食い放題だ。ビールも無料だった(ただし、運んでくるウサギ姿のおねえさんにはチップを払う)。


 上記の報告書によると、IRは2020年ごろから、2〜3箇所で始める予定。つまり東京オリンピックに続く公共工事として順番待ちらしい。正直なものだ。これで、本当に地域経済なり日本経済なりが発展すれば、まだしもであるが、その前に副作用が必ず出ると思う。

 この報告書からして、通常は、どんなメリットがあるかという華やかな話題が占めるのが公共事業の説明だろうに、依存症予防、暴力団対策、マネーロンダリング防止、刑法で禁止されている賭博行為との整合性、日本人の立ち入り制限という調子で、心配事が多くて気の毒。


 では、われわれは「君子危うきに近寄らず」で、自己防衛していれば足りるだろうか。この手の観光施設は、ほとんどギャンブル目的の客しか来ないはずだ。そして直行直帰である。スカイ・ツリーができた後で、地元の商店街がどれほど苦労なさったか、お忘れか。地域経済を圧迫するのは目に見えている。

 この報告書では、他国の成功例(たぶん)として、ラスベガスやシンガポールマカオを挙げている。そしておそらく意図的に、アトランティック・シティを外している。私が十代のころ、第二のラスベガスという感じで、鳴り物入りのご登場だった。

 日本語版には書いてないが、英語版のウィキペディアには、このアトランティック・シティのカジノ収入が全盛期の数分の一に落ち込んでおり、市の人口も減少の一途をたどっていると示されている。先日読んだギャンブル依存症の報告書にも、同市の惨状が簡略ながら書かれていた。韓国も苦労しているらしい。


 映画「オーシャンズ11」は、主な舞台をラスベガスに置いているが、登場人物の一人はアトランティック・シティのカジノ勤務で、そこから公衆電話を架けているシーンが出てくる。その背景に大きな赤いネオン・サインで、「トランプ・プラザ」という看板が映る。

 このカジノは、主な出資者が大統領選に出る直前に売りに出されたらしい。理由は不明であるが、追求したくもないな。こういう代物が、近所に建つという計画が決まったら、本気で転居を検討した方が良い。特に空港や新幹線の駅が近いところが候補地になるだろう。地元が荒れる。賭けてもいい。




(おわり)




ここが観光地になりませんように。
(2017年7月21日、親戚のうちの近くで撮影)








 And you coming back to me is against the odds,
 and that's what I've got to face

     ”Against all Odds”  Phil Collins

      元に戻る目は無い












































.