おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

も一度やるなら7月だ  (第1109回)

 戦争の話が続いたので、今回はのんびり映画鑑賞。アメリカ映画「SULLY」(2016年)、邦題は「ハドソン川の奇跡」。奇跡的であっても、奇跡ではない。監督はクリント・イーストウッド。主演はトム・ハンクスで、彼が乗るとアポロも飛行機も壊れる。

 サリーちゃんは、機長の愛称らしくて、長い本名は今からコピー&ペーストしますと、チェスリー・サレンバーガーさん。事故当時、今の私と同じくらいの年齢だ。2009年の1月15日にマンハッタン島の脇を流れるハドソン川に、たぶん史上初めて民間のジェット旅客機を不時着させた男。


 奇跡ではないと言ったのは、機長ほか搭乗員に失礼だと思ったからで、ついでに言うと、英雄でもなく、それは本人がはっきりそう言っているだけではなくて、日本には英雄扱いのニュースしか届かなかったと思うが、とんでもないと、さすがひねくれ者のイーストウッド監督は、事故調(日本では余り役に立たない)を主要な場面の一つに置く。

 役に立つか立たないかだけではなく、あのような(以下、筋を追いますのでご注意)、人の一生と巨額の保険金を左右するような行政の意思決定を行う会議を、公開するとは、この点さすがアメリカだ。日本では記者クラブの記者会見だけでしょう、きっと。


 冬のニューヨークは寒い。ロサンゼルスから年末に半袖で出かけていった私は、映画に出てきたラガーディア空港で凍えた。この事故の当日も、ハドソン川に一部、氷が張っていたと、屋形船の船長さんが言ってみえた。ハドソン川のツアーは自由の女神も拝見できて、かつてクロコダイル・ダンディが釣りをしていたものだ。

 この報道があってしばらく、日本でも航空機の離発着にともなうバード・ストライクの危険性が話題になり、羽田空港などバード・サンクチュアリの中にあるような環境だから、関係者におかれては、さぞかしご心配だったことと思う。で、解決したのだろうか?

 ちなみに、サリーさんを困らせた鳥の群れは、アメリカ政府のサイトによると、和名でカナダ・ガンまたはカナダ・ガモと呼ばれる比較的、大型の鳥で、日本では環境省に「特定外来生物」と指定され、おまけに日本初の撲滅成功例になった。彼らには何の悪気もないのだが、最近は物騒なアリンコまで渡航してくるので油断ならない。


 クリント・イーストウッドは、若い時分のマカロ二・ウェスタンやダーティー・ハリーで主役を張っていたころは大変な目立ちたがりだったが、監督を兼任または専任するようになってから、亀の甲より年の功、配役や演出が多角的で組み合わせも上手くなった。モーガン・フリーマンの貢献が特に大きい。

 この作品も、奥様や副操縦士を助演に、管制官や昔の先生やら飲み屋の皆さんやら脇も上手く据えた。調査委員会は一見、悪役なのだが、あれほどしつこく調査を繰り返すというのは、要するに、こういう結末を(無意識かもしれないが)望んでいたのかもしれない。


 一般に、エンジンが停まるというような大事故の場合、プロペラ機のほうが操縦しやすく、幾ら大きくてもジェット機のほうが大変という話を聞く。でも、サリーさんの職歴をネットで拝見すると、ベトナム戦争のときファントムに乗っていた歴戦のパイロットなのだ。

 さらに、安全訓練や事故調査といった地上勤務の経験もある。奇跡があったとすれば、彼の判断や技術というより、乗客にとって、たまたま乗った飛行機に、たまたまカナダ・ガンが巻き込まれ、どうやら助かる選択肢が一つしかなかった状況下で、たまたまこのおじさんが機長だったという点にある。


 この事故報道が今一つ、大騒ぎにならなかったのは、日付を見ると想像可能で、2009年1月はアメリカ合衆国大統領が、ブッシュからオバマに代った月だからだろう。ちょうど引き継ぎのころだった。

 ブッシュは、その着任の年に同時多発テロが起きてしまい、マイケル・ムーアに笑いものにされて、世襲という政治慣習のハイリスク・ノーリターン度合いを世界に証明した功労者だったのに、ようやく航空機の安全性評価を高めた出来事が起きた途端に、任期満了。

 本日のタイトルは映画から借用したもので、副操縦士もさぞかし寒い思いをしたらしい。私は夏とくれば、丸々一か月学校が休みだった8月をイメージするが、1月の半年後でもあるし、それに7月の4日は、連中の独立記念日だ。自由の女神の誕生日でもある。




(おわり)




日本では梅雨時につき、梅干し労働が始まります。
(2017年7月1日撮影)




 
 If you come down to the river,
 Bet you gonna find some people who live.
 You don't have to worry because you have no money,
 People on the river are happy to give.

     ”Proud Mary”   Creedence Clearwater Revival

























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