今回はSF関係の雑談から始めます。英語の挨拶にもいろんな表現があり、例えば、'' See you, later'' で「また会おう」、返事の '' In a while '' が「そのうちな」といった調子である。
1950年代の Rock&Roll 作品の一つに、「カエルが鳴くから帰ろ」と同じような発想であろうか、この挨拶をもじって「シー・ユー・レイター、アリゲーターズ」、「イン・ナ・ホワイル、クロコダイル」という歌詞があったそうで、今もインターネットの英和辞典などに載っている。
20世紀のSF文学の巨峰、アメリカ人作家ダン・シモンズの長編、「ハイペリオン」の圧巻は、歴史哲学者ソル・ワイントラウブの娘レイチェルを襲った悲劇である。
彼女は惑星ハイペリオンの《時間の墓標》における調査活動中に不測の事態に巻き込まれ、のちに医師や科学者が苦し紛れに「年齢遡行症」と名付けるに至る原因不明の奇病に罹ってしまう。レイチェルは一日経つと、一日若返るようになってしまったのだ。
ここまでなら、手塚治虫「火の鳥」に登場する宇宙飛行士マキムラが背負った宿命と似ている。しかし、レイチェルは肉体的に若返るだけではなく精神も逆行するため、本人にとって、いわば明日の記憶(昨日は覚えていた本来の一日後の出来事)が、睡眠中に喪われる。
両親や周囲はいやおうなく年を取る。生活環境も時と共に移り変わる。だが彼女はある日、恋人の名を忘れ、齢を重ねた友を見て驚く。昨日まであったはずの建物が突然消えたことに毎朝、気付く。やがて、言葉が話せなくなり、立って歩けなくなる。それでいて、その年齢に応じてレイチェルは幼かったころ同様、至って健康なのだ。
医療も宗教も全く役に立たない。ひたすら年齢的に退行し続ける娘と共に苦しみ、さらに、愛妻サライを事故で亡くしたソル・ワイントラウブは、赤ん坊のレイチェルを抱き最後の希望を求めて、苦痛の神シュライクが出没する惑星ハイペリオンへと向かう...。
前置きが長大になりました。この悲壮な物語において、せめてもの救いになっているのは彼ら家族がお互いに示す細やかで愛情に満ちた心遣いであろう。そのひとつがレイチェルのお休みなさいの挨拶、「レイター・アリゲーターズ」であり、両親が返す「ホワイル・クロコダイル」だ。
東京の外に出た川べりで、旅立つカンナと見送るオッチョは、ワイントラウブ親子のようなワニさん挨拶こそしていないが、この二人が行動を別々にするときにしては珍しく安らかな様子で軽く手を降って別れた。
別れたはずだった。しかし、また「のろし」が上がった。この日の彼らが後にした東京方面に爆音が響き渡り、黒煙が空に立ち昇っているではないか。これでもかと襲い来る試練であった。きついシーンが続いているので、次回は一休みするつもりです。
(この稿おわり)
上: 実家の花壇にて (2012年12月31日撮影)
下: 実家の近くから富士山 (同上)
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