おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

安直にWikipediaを信ずるべからず  (第1927回)

 ウィキペディアは便利です。私も公私を問わず、毎日のように使っている。特に単発の事実をすぐ知りたいとき、例えば信長の生まれた年とか、どこかの国の首都の名前とかを調べるには本当に使いやすい。

 だが、単純事実関係でも意外と誤りが多いうえに、歴史や文学や映画など、人物の「評価」が加わるものについてのウィキの記載内容は、安直に信じ込むべきではない。私の場合、まず概ねの見当をつけたいときにウィキペディアの冒頭概略をみたあとで、他のサイトで裏を取ってからでないと、危なくて仕事やブログで使えない。

 当然のことで、この自称百科事典は、執筆者や編集者の氏名も、出版社の社名もなく、そこらのブログと変わらない程度の信頼性しかない。中には本当に役に立つ良い記事もあるので、これからも存続はしてほしいが、使用上の注意は弁えておかないと、知らないうちに頭の中が片寄る。


 若い世代はご存じないかもしれないが、十年以上前に、おそらくもっともよく使われていた書き込み用サイトの「2チャンネル」は、当初、驚くほど高質で、研究者が専門的な意見や情報を交わしていたのを何度も見ている。

 だが、匿名で書きたい放題に書けるという利便性を悪用して、誹謗中傷の嵐が吹き荒れ、やがてよりによって国会で政治家から、「便所の落書きよりも汚い」などといわれるネットの負の側面を代表するようなサイトになって没落した。


 ウィキペディアも、基本的にはアカウントさえ作れば誰でも書けるそうだし、百科事典を自称する割に、「要出典」とか「誰が?」とか「独自研究」とか、散らかったものが少なくない。特に上記のような人物や作品の評価が入り込むようなジャンルにおいて、いかに無責任な記述が多いか、自慢しているように見えるほど酷い。

 意見が対立すること自体は当たり前のことだし、避けられはしない。問題は、率直に言って、対立構造は避けつつ、巧妙に陰湿に、人の感じ方考え方を、自分たちの意に沿うような方向に引っ張っていこうという魂胆が透けて見えることが多くなった。


 例えば、私はいま先の戦争の勉強をしている。戦争好きではないが、病気を知らずして医療職にはなれないのと同じようなもの。基本的に独学だが、何しろ素人が一から学んでいるので、書物、先輩からの助言、そしてネット情報は欠かせない。ウィキペディアもよく使う。だが、偏向しているし、ますます傾きつつあるのが私の目には歴然としている。


 同じころ同じ戦場で働いた人が、戦後、反戦的な活動をしている人は項目すらなく、逆に戦後に自衛隊に入って活躍されている方は、その人自身を責めるわけでは全くないが、むやみに詳しい。この程度なら、材料の多寡に因るものかもしれない。

 他方で、次回の話題にする予定の作家、城山三郎を例にとろう。これを書いている時点において、彼の著作がウィキペディアにも並んでいるが、代表作として青字のリンクが張られているものは、おおまかな傾向だが軍事や財界で活躍した主人公のものが多い。


 逆に、今の日本の傾向とは逆方向に進もうとした人たち、例を二つ挙げれば、緊縮財政で軍事予算を削ろうとして凶弾に斃れた浜口雄幸井上準之助を描いた「男子の本懐」は当時、大評判を得たし、足尾銅山事件を憲法問題に昇華させて法廷に持ち込んで戦い続けた田中正造の「辛酸」も力作なのだが、ウィキは興味がないらしい(次回触れます)。

 また、先の戦争に関する書き込みの「出典」とやらも、多くが21世紀に入ってからの名も知れぬ作家だか史家だか分からないひとの文庫本や一般向けの新書が並んでいるものが少なくない。ひどいときには、週刊誌とか夕刊フジとかいうのが混じっている。

 夕刊フジは昔よく読みましたが、最近は縁がないな。週刊誌やタブロイド新聞を小馬鹿にしているのではない。いやしくも百科事典なら、これらの大衆向けマスコミの引用元にならなければいけないと私は思うのだが、逆なのだ。


 昭和初期の日本を軍国主義に引きずり込んでいった事件の中でも最大の奇観、ノモンハン事件を厳しく批判した司馬遼太郎半藤一利井上ひさし村上春樹といった人たちに対する執拗な攻撃をみていると、そのエネルギーを育児介護ほか社会問題への貢献に転用してはどうなのかと切実に思う。

 ノモンハン事件の首魁、辻政信の子孫は、姻族なので血のつながりはないそうだが、現役の最大与党所属の衆議院議員である。その政治的主張は、祖父や首相や何とか会議とそっくりであるようだ。なぜか当人のサイトには書いてないが。これは最近の知事選にまつわる報道の中で知った。思想教条は自由だが、中身は別問題。

 お仕着せがましいですが、特に若い世代におかれては、今の日本はこういう国であることを、そして、インターネットはむしろ副作用のほうが強いというくらいの警戒心をもって接していただきたいのです。



(おわり)



東京の夜明け (2019年2月1日撮影)




































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