おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

毎年度会計  (第1367回)

 財政の章において、改正草案は第86条に新しい項を三つも新設した。他に例を見ない。よほど言いたいことがあるらしい。間もなく内閣の改造があるそうで、どうやら財政の担当大臣A君は留任するらしい。改正草案にも尽力された由、彼の主張として聞こうか。現在の憲法は、かくのごとくシンプルである。

【現行憲法

第八十六条 内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。

第八十七条 予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基いて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。
二 すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない。


【改正草案】

(予算)
第八十六条 内閣は、毎会計年度の予算案を作成し、国会に提出して、その審議を受け、議決を経なければならない。
二 内閣は、毎会計年度中において、予算を補正するための予算案を提出することができる。
三 内閣は、当該会計年度開始前に第一項の議決を得られる見込みがないと認めるときは、暫定期間に係る予算案を提出しなければならない。
四 毎会計年度の予算は、法律の定めるところにより、国会の議決を経て、翌年度以降の年度においても支出することができる。

予備費
第八十七条 予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基づいて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。
二 全て予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない。


 いまの憲法は第86条に、いわゆる単年度会計の規定を置いている。たいていの企業と同じで、年単位の予算・決算を行う。財源は国税のはずで、国債の出番も多いが、いずれにせよ国民にお金の負担をかけるため、予算案は国会での議決を必要とします。

 第87条は、恥ずかしながらこれも初めて今回知った。過去に、これを発動した実例があるのだろうか。「予見し難い予算の不足」とは、思うにハイパー・インフレーションや大恐慌で歳入が激減するか、さもなくば大震災や大戦争で歳出が激増する場合などであろうか。緊急事態を認めるため、事前も事後も国会にかける必要あり。


 さて、前条に戻って、改正草案の新設項目二〜四とは何か。おそらく日常ニュースで聞く用語で置き換えれば、第2項は補正予算、第3項は暫定予算、第4項は繰越のことだろうと思う。

 いずれも民間企業では、そう簡単にできることではないはずだが、日本政府は毎年のようにやっている。私も遠い昔、公共事業的なことに関わっていたことがあり、暫定予算が成立するまでの面倒さ加減や、繰越のありがたさと手続きのややこしさ等に、一担当者として往生していた記憶がある。


 つまり、昔も今も普通にやっているはずなのに、なぜわざわざ改正草案は、憲法に加筆せんとするか。今もやっているということは、いちいち調べないが、そういう財政の法律があるはずだ。しかも、第2項および第3項は、主語が内閣だから、行政府だけの特権を求めている。

 事例が先行し、条文を新たに書きたいという事情は、思いつく限り一つ。自衛隊と同じで、今の憲法では読みづらいからだ。違いますか。これだけ法律と前例に恵まれた制度を、憲法に明記する必要性が他にあるのだろうか。


 意地悪く見れば、第1項に単年度会計の原則を打ち立てておきながら、第2項以下は、現在もそうなのだが、年度途中でも国会さえ「うん」と言えば、予算の修正ができるということだ。回数制限すら書いていない。現在の憲法では、この第1項と微妙に食い違いを見せる国家財政の運用に齟齬がないよう、憲法を変えようというご所存か。

 そうだとしたら、これまでが間違っていたのだと、素人にもこうして疑われかねないのですが大丈夫でしょうか。別に憲法違反の疑義がないのであれば、いちいち追加する必要はないと思う。なぜ、こんなに目立つことをしようとしているのか不明です。補正や暫定の必要性を指定しているのではないので悪しからず。




(おわり)




近所に雹が降った日  (2017年7月18日撮影)

































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