おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

現行犯人  (第1232回)

 憲法のこのあたりは刑事事件に関するもので、どうにも筆が進まないのは、心のどこかで自分とは関係ないと思っているからに違いない。しかし、いきなり被害者になるのが刑事事件であり、運が悪いといきなり加害者にされてしまうかもしれない。

 今のところ大丈夫という自信は、将来の安寧を何ら担保しない。ということで心を入れ替え、顔を洗いなおして第三十三条に進みます。現行犯、逮捕、司法官憲、礼状という物々しい単語が並んでいる。


【現行憲法】 第三十三条 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。

【改正草案】 (逮捕に関する手続の保障) 第三十三条 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、裁判官が発し、かつ、理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。


 物々しくても、この中身は刑事もののドラマや映画でお馴染みです。「司法官憲」は古い言葉で、ここは改正草案が書いているように「裁判官」に直すのが良いと思う(両者が全く同じならば)。

 裁判所の令状がなければ逮捕できないというのは、立派な三権分立の実例だと信じているのだが、通常、三権分立を図式化したものには載っていない。一般の国民にとって、非日常的なもの(権力者間のもの)しか書いていない。

 ご参考まで、衆議院の例。「司法」から「行政」への矢印、「命令・規則・処分の適法性の審査」というのは、行政訴訟のことでしょう、たぶん。
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/kokkai/kokkai_sankenbunritsu.htm


 この法的手続きの詳細については、先だってご登場いただいた刑事訴訟法に詳しい。用語は「令状」に換えて、生々しくも分かりやすいく「逮捕状」になっている。では関連条文を二つ。

第二百十二条  現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者を現行犯人とする。
2  左の各号の一にあたる者が、罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす。
 一  犯人として追呼されているとき。
 二  贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。
 三  身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。
 四  誰何されて逃走しようとするとき。

第二百十三条  現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。


 この第213条の内容を知ったのは、まだ十年ぐらい前だと思う。警察官ではない私でも、逮捕状なしで(そもそも、もらえまい)、現行犯なら犯人を逮捕できるのだ。ただし、いろいろ条件があるので、濫用しませんように。

 その条件の筆頭は、そもそも現行犯人とは何ぞやという第212条の定義である。まず第一項に、「現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者」とある。英文法で言えば、前者が現在進行形で、後者が現在完了形。前提として、何が「罪」なのかを知らないと、自分が逮捕される方に回りかねないので要注意。


 同条第二項は、この定義の拡大解釈的なもので、よく似たケースでも「現行犯人とみなす」場合があるという定め。一号から四号まで、「見るからに犯人」というときのことだろう。

 私のように徒歩で、オフィス街や商店街や交通機関周辺を移動するだけの者は、「一  犯人として追呼されているとき」に出くわす可能性がある。典型は、泥棒と痴漢だろう。幸い第213条は逮捕することが「できる」という言い方なので、取り逃がしても、怖そうな相手だから逃げても大丈夫。


 ただし、いきなり駅のホームから突き落として、後始末を電車にお任せしたら、こちらが御用になるだろう。大ケガしない程度に、大勢で取り押さえたという報道を時々きく。二と三の組み合わせに遭遇した場合は、近寄らずに通報します。

 おそらく四に当たるケースを、十五年くらい前に新宿の街角で見た。信号待ちしていたら、若い男が一人、走って逃げてきて、後を追ってきた制服の警官お二人に、横断歩道の上で取り押さえられた。

 大変な交通の迷惑でもあるが、それより印象に残っているのは、何十人という通りがかりの連中が、ケータイで写真を撮り始めたことだ。当時まだスマホSNSも無かったが、今なら大騒ぎだろう。あれらも何かの現行犯人ではないのだろうか。





(おわり)




水戸出張の途上、常磐線より筑波山を見ました。
(2017年2月15日撮影)


いま茨城とくれば。
















































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