おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

法治国家と警察国家  (第1299回)

 第30条の納税のところまで進んでから、しばらくの間、別の話題を取り上げたり、空白の時期があったりで間が空きました。第31条から第40条まで、言い換えると憲法の第三章「国民の権利及び義務」の最後の部分をこれから始めるにあたり、本日は準備運動的に、この箇所に出てくる裁判、刑罰、司法官憲(主に裁判官のこと)といった言葉に関連して、ようやく最近、覚えたことから更新を再開します。

 法治国家という言葉は、けっこう日常、耳にするもので、私自身も、おそらく多くの人も、「悪いことをすると警察に捕まり、裁判にかけられ、刑務所や罰金が待っている世の中」というような、漠然とした意味合いで使っていると思う。実際そのとおりなのだが、法治国家の意味するところが、それだけかどうかは別の問題である。


 そんなことを思ったのは、ある日ふと、それなら律令制武家諸法度の時代だって、法があり刑があったのだから、大半の人間社会は「法治」と呼ぶべきであろうが、実際はそう考えている人はまずおるまい。何となく念頭に置いているのは、整備された近代法(現実的には、欧米が作ってきたルールの改訂版)で経営される国家のことではなかろうか。

 それで正しいか。こういうとき私の場合、まずは辞書です。広辞苑第六版によると、まず【法治】とは、「法律に準拠して行われる政治」とある。これなら、律令制韓非子も含めて構わない気がする。そのあとに、法治国家の解説があるのだが、単に法治を行う国家という意味ではない。

法治国家】 国民の意志によって制定された法に基づいて国家権力を行使することを建前とする国家。権力分立が行われ、司法権の独立が認められ、行政が法律に基づいて行われるとされる。法治国。


 さて。この説明は、明らかに国民主権下の憲法を意識したものだ。それに基づいて国家権力は行使されるのだが、そのあとに「建前」と挟んでいるところがお茶目であろう。何だか怪しい、と辞書も言ってみえるのだ。具体的には、その続きの部分だろう。

 権力が分立しているのか。司法権の独立が認められているのか。行政が法律に基づいて行われているのか。日本国憲法に「三権分立」という言葉は出てこない。他方で、自民党の「改正草案」には、その前文において「国民主権の下、立法、行政及び司法の三権分立に基づいて統治される。」と明言しているので、このままである限り、「建前」は確保されている。


 実態がどうかを論じ出すときりがないので、雑駁な話題を二つほど。日本の議院内閣制は、ご存じの通り基本的・習慣的に、衆議院選挙で最大多数の議席を得た政党が、自分たちだけで内閣総理大臣を選び、総理が閣僚を選んで行政府の頂点である内閣を構成する。このため内閣総理大臣が、自分は立法府のトップだなどと言い間違えが起きることがある。

 海の向こうのアメリカ合衆国では、これを書いている2017年2月上旬の段階において、行政府の長たる大統領が、法律に準ずる効力があるという大統領令を粗製乱造しているらしく、これを諫めた裁判所に対し、あろうことか法的や手続き的な議論ではなく、裁判官の個人攻撃という形で、ののしってみえる。しかも、Twitter...。かくのごとく、法治国家も様々である。


 法治国家とは対立的な概念として、広辞苑に紹介されているものに「警察国家」がある。こう書いてある。ドイツで出来た言葉であるらしく、最初にドイツ語のスペルが載っている。続いて日本語の解説。

警察国家】警察力をほしいままに行使して国民の日常生活を監視規制する国家のあり方。十七〜十八世紀のドイツ・オーストリア絶対君主制下で内政の口上をはかるため唱えられたのが原型。→法治国家
 
 こういうブログを書いていると警察に捕まるのが、警察国家だという理解で、大きな場違いではあるまい。幸い、うちの近所のお巡りさんたちは丁寧で仕事熱心であるから、現状、心配はしていないが、彼らとて仮に「お上」から見当はずれの厳命を受けたら従うか、辞めるかしかあるまい。


 ちなみに、「絶対主義」とは、辞書の説明が長いので冒頭部分のみ記すが、「君主に至上の権力を付与する専制的な政治形態」のことで、この続きを読むと、例えば「王の統一権力が成立しながら、身分制を保持する」などと書いてある。

 私は西洋の歴史学だけで、日本やアジア諸国などの政治経済社会を説明するのは、乱暴ではないかと思っている。それでも、ときどき上手く解説できるので、借用されるのは仕方がない。私もやります。この絶対主義の定義は、身勝手な解釈をされ始めてからの明治憲法そのものだ。

 そこに戻ることを目指す人々は、いつの日か自分がロベスピエールになるおそれがあることを考えもしまい。では、第31条から始めます。




(おわり)





近所に梅が咲きました。
(2017年2月5日、家人撮影)































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