おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

私有財産と金融資産課税のこと  (第1293回)

 本題に入る前に、本日は天皇誕生日です。おめでとうございます。4か月前、私は8月の「お言葉」の放映を観て、一代限りでよいから皇室典範の改正のための特別法を作るのがよいと書きました。結果的に、事態は同じような方向に進んでいるかに見えますが不本意です。

 誤解を恐れずに申し上げれば、あのときそう考えたのは、一言でいうと「時間との闘いだ」と考えたからです。それは今も変わっていません。それなのに、まだ識者なる方々の意見が、何となくそういう方向に収束されつつあるという段階に過ぎない。牛歩戦術も、ずいぶん洗練されて参りました。


 今朝の各報道では、陛下が「感謝しています」というニュースが一斉メールのように届いたけれど、日本経済新聞が報じた記者会見の全文を拝読したところ、文章量でいえばその十分の一にも満たない話題です。他にも大事な内容がたくさんありました。

 多くの報道機関のこういう姿勢はなぜなのか、また譲位に関する動向についての陛下のご意見を、これだけの情報量で、私たちは推測することになります。この先はまだ、途方もなく長いな、というのが私の感慨です。 (注:この段落は分かりにくかったので、後日、書き改めました)


 憲法に戻る。毎回のように、「私見ながら」を連発する小欄ですが、今回は常にも増して、縦横無尽に独断と偏見の嵐。話題が財産だから、論旨も言葉遣いも、金銭欲にまみれて荒れるであろう。本日の話題は、憲法第29条、市民革命が血と涙で確保した財産権。

  【現行憲法

第二十九条 財産権は、これを侵してはならない。
二 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
三 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

  【改正草案】

(財産権)
第二十九条 財産権は、保障する。
二 財産権の内容は、公益及び公の秩序に適合するように、法律で定める。この場合において、知的財産権については、国民の知的創造力の向上に資するように配慮しなければならない。
三 私有財産は、正当な補償の下に、公共のために用いることができる。


 改正草案が、ゴチャゴチャと手を入れているところは、本音が丸出しの部分である。彼らは前条の勤労では大人しかったのだが、勤労させた後を扱う本条では細工が目立つ。第一条の「不可侵」は、改正草案では「保障する」に激安となった。あまりに、むごい。

 これと同じ改変案は、第19条の「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」でも登場した。つまり、物心ともに、いちおう太鼓判は捺すが、でも手は出すということでしょう。いずれも軍隊の規定を置けば、当然こういうことになる。

 この点は、続く第2項の「公共の福祉」が、「公益および公の秩序」に置き換わろうとされている点も同じ。戦争用の憲法は、こうでなくてはいけない。こうしても、勝てるとは限らないのだが。勝っても人は死ぬのだが。現時点では、公共の福祉に反してはダメということで、独占禁止法累進課税などの縛りがあるが、その程度であり、財産権の制限も相応の穏やかさで済んでいるのだと思う。


 以上に加えて、本条の改正草案には、今回のタイトルに選んだ「金融資産課税」を密かに企む気配がして、どうにもキナ臭いと思うのは、私だけなのだろうか。正直言うと、私自身は、財務当局の「長年の大願である」などと週刊誌等に書かれている金融資産課税が導入されても、恥ずかしながら痛くも痒くもないほどの金融資産しかない。

 でも、自分や家族や実家の看護や介護のために、ささやかな蓄えはある。できれば温存したいのは当然のことだ。他方で、改正草案の第2条が、「公益及び公の秩序に適合するように」となっているのは、国庫が破たんの危機に瀕したら、遠慮なく増税するという意味でもある。「公」が好きな人たちにとっての「公」とは、自分たちだけのことだからね。異論ないですよね。

 特に、新規課税の目玉商品は、欧州では既に導入している国もあると聞く金融資産である。ほとんどの国民は、タックス・ヘイブンに逃げ出す方法を知らず、伝手もない。「パナマ文書」とやらで、マスコミが大騒ぎしているのは、今のうちに何とかせいという暗号みたいなものなのだろう。


 増税は何にせよ、嫌なものである。さらに、公平性という観点からすると、自宅など不動産は登記するから、税金を取りやすいため、否応なく課税される。その固定資産税は、金融資産でいうと元金にあたる不動産価格の相当額にそのまま税率が課せられるのに、大金持ちとの格差が大きい金融資産については、現状その利子にしか課税されない。これは私個人の事情がどうのという問題ではない。あまりに、不公平だろう。

 そこまでしなくても国家財政が順調だった時代は、無理やり他人の懐まで探らなくても済んだ。今や借金大国と言われているのに(とはいえ、あの額では現実感すら湧かない)、国防予算は大幅増額した。外交能力と反比例するらしい。前の政権時代から「社会保障税」とつつましやかに呼ばれていた消費税アップ分の使いみちに関する約束も、とっくの昔に反古にされた。


 この第2項の改変と、今のままでも構わない第3条が組み合わさると、例えば平時なら、公共事業における「立ち退き」要請の正当化に役立つ(第3項だけ「私有」が付くというのも露骨な話である)。そして戦時においては、私より親の世代のほうが詳しいだろうが、国家権力の手にかかれば何でも戦費調達できる。お寺の鐘や、二宮金次郎さんの像まで持って行った。

 次回は話題が納税そのものだから、もっと荒れるかもしれない。なお、第2項の後半に、改正草案が付け加えようとしている知的財産の保護規定の意図がよく分からない。知的財産は抽象的なもので、課税も戦費調達もできないから、いっそもっと働いてくださいということでしょうか。この権利にも私は縁がないので、皮肉もこのくらいにしておきます。さあ、次は税金、税金。








(おわり)









明治時代の百円札。この人、藤原鎌足らしい。