おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

シロタさんとシラスさん  (第1361回)

 なるべく他の人の意見に左右されないよう、独学を優先すると書いて始めたブログだが、新聞や雑誌を読んだりインターネットで検索をしたりしていると、このご時世、憲法改正に関する記事が多く、こちらも意志が弱いのでつい覗いてしまう。

 ネットの例を挙げると、第22条や第23条は、いかにも政治や法律に詳しくて改憲に関心がある人が書いたであろう固い感じのタイトルが目立つ。第9条はイデオロギーの嵐が吹いている。これらと比べて、第24条は私と同様、少し前まで憲法に興味を持っていなかったような人も議論に参加している様子が見て取れる。たぶん誰かが土足で踏み込んできそうな感じの嫌な予感がするのだろう。


 第三章「国民の権利及び義務」は、条項をいい加減に並べている訳ではない。最初の方に総括的な条文、次のグループは思想、信教、言論といった、我々の心の中や行いについての定め。そしてこの第24条と第25条は、私たちの生活全般に関わる話題だからこそ、広く関心と反発を呼んでいるのだろう。
 
 ちなみに、後半は第26条から第30条までが国民の三大義務と、それに関連する権利その他の規定。第31条から第40条までが戦争までの時代を反省して、組織で言うと警察・検察・裁判所などに関する厳しい定めが並んでいる。さて、おおまかな整理を済ませたところで、いつものように今の憲法と改正草案を並べて比べる。


 
  【現行憲法

第二十四条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
二 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。


  【改正草案】

(家族、婚姻等に関する基本原則)
第二十四条 家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。
二 婚姻は、両性の合意に基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
三 家族、扶養、後見、婚姻及び離婚、財産権、相続並びに親族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。


 すでに随所で指摘されていると思うが、最大の変更点は、(1)第1項に家族の相互扶助に関する規定を新設しようとしていること。さらに、(2)第2項の「両性の合意のみ」の「のみ」を削ろうとしていること、(3)第3項に示されている立法上の各注意事項に、出入りや順序の入れ替えがあること。

 第24条の三つの項は、相互に関連しているのが明らかである。そして一言でいえば、第24条は全体的に、「婚姻規定」が「家族規定」に替えられようとしている。念のため、いずれも「婚姻」と「家族」の両方の言葉が載っているが、どうみても序列が逆転している。時間的順序でいえば、新しい家族を作るのは婚姻から始まり、その柱となるのは夫婦というのが一般的だろう。

 それでも家族を強調する目的として、報道等によれば改正勢力のメンバーは、今の日本では家族がバラバラになってしまい、良くない世の中になった旨の主張をしているらしい。本当にそうか、そうなら誰がバラバラにしたのかも考えなくてはいけない。行間も読まなくてはいけない。


 最も原則的で重要な前提は、日本を始め多くの現代の国において、憲法は主権を有する国民が、国家権力からの権利・自由の侵害を防御すべく制定されている。そのはずなのだが、改正草案はそれを根底から無視し、至る所で自らの義務を減らし、国民の義務を増やすを企図していることが明らかである(権利はその逆方向)。その一典型が、第24条における攻防に現れ出でている。

 これを語るに論点が多すぎて困るほどだが、まずは順番どおり第1項の前半から読む。その前に第24条では、第三章に頻出する「権利」「義務」「自由」の語が、いまの憲法にも改正草案にも一箇所しかなく、すなわち第2項の「夫婦が同等の権利を有する」というところだけだ。我が国における男女平等は、憲法で言うと夫婦から始まった。


 ほかの権利・自由と義務は、原則、国家と国民の関係において語られているので、これだけでも、第24条はそもそも異質である。これは、GHQの女闘士、ベアテ・シロタ・ゴードンの貢献抜きでは語れないらしい。私は彼女の名を、東京新聞で知った。あくまでご本人の証言のみだが、でもこのネット情報が、ずっと残りますように。白洲次郎がチョイ役で出てくる。 【追記】残念ながらリンク切れ。
http://www.tokyo-np.co.jp/hold/2008/sokkyo/news/200705/CK2007050102019250.html

 インタビューの中で、日本通だったという彼女が、「民法を書くのは、官僚的な日本男性ですから、憲法にちゃんと入れないと、民法にも入らないと思ったんです。民法を書く人が縮められないよう草案に詳しく書きました。」と語っているのが興味深い。そう何もかも上手くはいかなかったようだが、彼女の意も汲んでもう一度、戦後の経緯も振り返ろう。民法も見よう。






(おわり)








薪の小屋 現役  (2016年9月23日撮影)










































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