おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

職業選択の自由は守られているか  【前半】  (第1355回)

 大学で経済学を専攻したし、そのあと営利企業で働いたから、報道でもネットでも政治の話題より、マクロ経済のほうに目が行くことが多い。今回は珍しく、憲法談義でありつつも、経済領域がテーマとなる。予めお断りしておきます。リニア新幹線を痛罵するので、個人的な恨みはないが、関係者の皆さまにおかれては、立ち入りをご遠慮願いたい。今日は物凄く荒れております。

 生まれ故郷の静岡市は、県庁所在地のくせに、市内の北部に3千メートル級の高山が連なっている。遠いし高いしで、行ったことがないが、でも故郷の山々である。勝手に南アルプスなどと、バタ臭い名で呼ばないでもらいたい。赤石山脈という立派な地理の固有名詞を持つ。


 この赤石山脈の真下を、あろうことか鉄道が通り抜けようとしている。リニア・モーターカーと呼ばれていた時代は、もう少し遠慮して走るのかと思っていたが、今やリニア新幹線という名に変わり、将来は外国に機材や技術を輸出せんという魂胆かと思う。ところで、幹線はともかく、いつまで「新」なのだろう。私と同じく五十代なのに。

 不幸中の幸いは、このリニア新幹線の駅を、静岡の市内・県内に置く計画がない。やめて。あの高速かつ宙ぶらりんの列車が、トンネルを出入りするときに生ずる騒音や振動は、さぞや凄まじいものだろうし、世界初だから、やってみないと被害の程が分からない。前例のない人工の電磁波の嵐が吹き荒れそうだが、ペース・メーカーも本当に大丈夫なのか。


 これが必要不可欠の交通手段であるならば、私も黙って様子を見守るのだろうが、こだま号もひかり号も、座れなかった試しがない。今年7月の参院選で大勝した日か次の日か、私が観たテレビのニュ―スで、安倍総理大臣が開口早々に高言なさったのが、このリニア新幹線の計画前倒しとやらであった。コイズミは、ああ言ったが、自民党は少しも変わっていない。

 それどころか、田中角栄時代には車の両輪だった公共事業の促進と、そこで働く人たちの社会保障の充実のうち、後者は着々と国家予算を削っているのに、前者は東日本大震災の被災地のどこを訪れても、住民を見下ろすがごとき防潮堤と、鳥も通わぬのではないかと心配になる高速道路の建設ラッシュである。


 これで日本経済が、逞しく回復しているのであれば、好きも嫌いもなく、黙るしかないが、最新の内閣改造で総理が言及なさった経済状況は、インターネットにしっかりと残っている。「デフレからの脱出速度を最大限まで引き上げてまいります」(2016年8月3日)。相変わらず、デフレを脱却していないのだ。

 実際、諸物価や賃金も、低下または停滞している。 逆にジニ係数は上がりっぱなしだ。景気の回復のおかげではなく、人手不足のせいで失業率が下がるという時代を迎えている。鳴り物入りで一世を風靡したかに見えた新自由主義経済政策は、どこで何をしたのだろうか。

 高校の世界史に出て来た「レッセ・フェール」。自由放任主義。自由にできる人だけ、自由にしていい。思えば、当時の日本の場合、旧自由主義の間違いであった。今回の私は「新」に厳しいな。女工哀史蟹工船と公害、日本は元来た道を、かなり正確に後戻り中である。


 いまの憲法で、経済という言葉が出てくるのは第14条のみ。小欄では既に通過した人権の部分であり、政治的・経済的に差別されない云々の箇所だけである。しかし、改正草案においては、これも既に見て来たとおり、前文に「経済」の語が出てくる。初めて見たときの違和感は忘れがたいが、なぜかと問われても上手く説明できそうにない。でも頑張る。

 改正草案における該当の箇所を引用する。前文の第4段落にあたる。
我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、教育や科学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて国を成長させる。


 我が国が近い将来、自由を重んじる経済活動を通じて成長する国に戻るのは、とうてい無理ではないかと思うのだが、どうだろう。先日公表された国勢調査の結果が示すとおり、人口は可及的速やかに絶対数が減り始めているし、且つ休む間もなく高齢化と少子化が進む。率直に言えば、悪化する。

 生産者も消費者も、出産・育児の世代も、いつ終わるか分からないほど先まで減り続ける。他方で、多くの外国が経済成長しつつある。悲観的事実だけ乱雑に並べたと言われそうだが、個々に指摘した事柄は、誰も否定はできまい。


 改正草案の前文において、経済成長宣言の前に置かれた「美しい国土と自然環境を守りつつ」という箇所は、「どの面、下げて」と、お下品な言葉で飾りたい。赤石山脈の地下も、日本国の国土である。漁師の皆さんが暮らす三陸の海辺も国土である。

 どちらも、これまで豊かな自然と共にあった。「彼」の「美しい」は、私にとっての「醜悪な」と同義らしい。まだ言い足りない。「コンクリートから人へ」と珍しく優れたスローガンを立てた敵対政党のバラマキ政策を批判していたものだが、自分たちは国家予算を囲い込んでバラマキすらしない。長くなったので、つづきは明日にします。


 




(おわり)





信州の青空  (2016年10月18日撮影)














 Let me ask you one question.
 Is your money that good?
 Will it buy you forgiveness?
 Do you think that it could?

  ”Masters Of War” Bob Dylan 








































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