おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

5月3日 とんかつ店と憲法記念日  (第1263回)

まずは経済危機の話です。観光業というのは、企業統計などでよく使う総務省日本標準産業分類には載っておりません。でも定義も要らない、分かりやすい言葉です。自分が観光旅行や出張に行くときにお世話になる業界の総称です。

移動するには運輸や旅行代理店。旅行中の生活手段として、宿泊や飲食。土産物を買うにあたっての小売りや、その前段階の製造。そこで遊ぶための娯楽施設や、レンタルショップなどのサービス業などなど。


一年の前半でいうと、わが国ではまず学校の春休みやお花見が重なる時期と、その一か月後の大型連休が、これらの業界の書き入れ時であり、そうでない人には行楽の季節でもあります。今年は毎年繰り返すこの繁忙と楽しみが、COVID-19 の流行拡大期に重なってしまいました。

どこにも行けないのは全員同じですが、誰も来てくれないと困る観光業はもちろん、上記の繁盛の時期でなくても観光地でなくても、来客あっての接客や販売を生業とする人たちの経済活動に深刻な打撃をもたらしました。私の身近でいうと商店街、飲み屋・食事処、床屋さんなど揃って長い休みに入り、生活に支障が出ました。


しかし、買い手にとっては不便程度で収まっても、売り手にとっては事業存続の危機です。それは今も続いているし、今後続けば続くほど重く、また将来に向けた不安と焦燥が高まり、これからの季節でいうと夏休みはどうなるのだろうという危惧が生まれます。

私のような一般書類作業を主とした事務職には、その辛さが理屈では分かっても、ニュースで教えてくれても、よく分かるなどと容易に同情できる話ではありません。今年の大型連休は、緊急事態宣言が重なったうえに、2020オリンピック・パラリンピック東京大会が延期になり、しかも学校が閉鎖されて、家族連れも自由が利かなくなりました。


そういう事態の深刻さを、私でも身に染みて感じた事故がありましたので、一つだけ書き残しておきます。連休中の4月30日、都内のとんかつ店の店主さんがなくなられた。ご本人は商店街の中心人物の一人で、お客さんの評判も良く、そして東京大会の聖火ランナーにも選ばれていたといった報道だったと思います。

しかし、聖火リレーは3月24日に中止になってしまった。このころから「自粛要請」が厳しくなり、観光地でも都市部でも、中小零細の商業・サービス業は急速に苦しくなっていったはずです。だが政府からの事業支援も、収入の補てんも遅々として進まない。

いずれ確報値が出ると思いますが、4月から5月にかけて廃業や離職が急増しているはずです。すでに速報値において、倒産の増加や雇用情勢の悪化が顕著です。


つまり健康問題の恐怖に加えて、やはり経済問題の恐怖が加わってきてしまった。いつも最初に負担に耐えられなくなるのは、個人でいえば高齢者や病気持ち、事業でいえば小規模零細といった社会的な弱者です。とんかつ店もその数多い例の一つだったと思いますが、記憶に残ったのは警察発表の内容でした。

毎日新聞の記事によると、「遺体にはとんかつ油を浴びたような形跡があり、警視庁光が丘署は出火の経緯を慎重に調べている」。私の長年の印象では、警察は普通いきなり、このような推測を発表したりしないと思います。


せいぜい「火元は調理場とみられ、火災に巻き込まれた可能性があるとみて云々」です。警察の職務として、事件性の有無を捜査しなければなりませんし、ご遺族もみえるから、慎重なのは当然です。でも違った。警察は何か、世間に伝えたかったことがあるのではないかと感じました。これは或る一店舗のトラブルではない。

緊急事態宣言は、後述しますが5月4日までに、当初期限の5月7日から延期することが確定していたらしい。その前日は、憲法記念日でした。三密になりかねませんから例年より小規模にしたそうですが、いつものように改憲派護憲派が、集まって気勢を挙げた。


そしてそこで、改憲派が強調したのが、緊急事態に対する方策の重要性ではなく、緊急事態条項の必要性だったといいますから、さすがの私も怒りました。この段階で語るべき必要不可欠にして緊急の事柄なのか。私の眼には、不要不急の代名詞のように見えますが。

裁判も大勢の人が一か所に集まり、ときには声を荒げての討議になりますから、公判がしづらくなって困っているとのことです。5月3日、大谷最高裁判所長は異例の記者会見開催および談話の発表を行っています。「国家機能が著しく損なわれている状態」と警鐘を鳴らしておられる時期です。

私は真に必要なら、憲法改正の議論はいつでも為すべきだと考えておりますので、一字一句たりとも改正不可というような護憲原理主義者ではない。あらゆる改正案については、個々に検討する所存です。


それが、あの出来の悪さで悪評まみれの自由民主党日本国憲法改正草案にある新設の緊急事態条項を持ち出してきました。今まさに前代未聞の緊急事態にある訳ですから、要人が大勢集まって議論するとしたら、この緊急事態条項がなかったがために、緊急事態に対処できなかったという具体例の提示がなくてはなりません。それなら、まだわかる。

当日の出来事を伝える記事や動画を幾つか見ましたが、途中で気分が悪くなってやめました。したがって見逃した恐れはありますが、我慢を重ねて調べた範囲内では、いつもの「2020年にぜひ改憲」を、というオリパラと抱き合わせのままのタイミング設定によるIR騒ぎで終始したらしい。


憲法については前から一度、勉強したいと思っていたところ、共謀罪だの特定秘密だの集団的自衛権だのと不審な動きが続いたため、独学で「憲法と社会」というブログを書きながら学びました。その際に緊急事態条項案をみて、これでは内閣が法律を好き放題作れると思い、警戒するようになりました。

その後、改憲案は4項目に絞られ、さらに第九条に自衛隊を明記するという一点突破方式に方針転換したようだったので、いったんブログの更新はやめました。それが、この度の憲法記念日の集まりにおいては、再びどさくさに紛れて緊急事態条項案が復活です。


都合の良い法律を思いつく。かき集めて「束ね法案」を官僚に作らせる。閣議決定する。国会で強行採決する。各法を一斉に改正する。これが集団的自衛権のときに成功して味を占め、二匹目のどじょうを狙った改正検察庁法案で、総すかんを喰らい、それでも先送りと申しておられる。改憲も「束ね条項案」で来そうです。

されど私を含め、多くの有権者が仕事の場を奪われ、遊びに行く場を失い、時間と体力だけはあったため、この春から初夏にかけては、ネットやテレビ・ニュースを観る機会が各段に増えました。気が付けば政治は泥沼と化している。COVID-19 を悪用しようとしたが、反作用も大きかった。まだこれからも火の用心です。



(おわり)


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最近は都内にもインコが増えました  (2020年5月3日撮影)




















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