おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

4月3日 メルケル  (第1246回)

ドイツのメルケルは、予防接種をしてもらった医師の、新型コロナ・ウイルスの検査結果が陽性だったのを受けて、今年3月22日から二週間の自宅隔離に入った。続いてイギリスのジョンソンも、3月27日から、こちらは本人が重篤の患者になり、約一か月の自宅療養および入院を経て戻った。

世の中には敬意をこめて呼び捨てにすべき人物というものがいる。クロサワとかナガシマとかケネディとか、人により違うだろうし、面と向かって話す機会があったら呼び捨てはまずいが、こういうときは良い。さて感染拡大初期の独英の初動はあまり評価が高くなかったと記憶する。


しかもその前から、メルケルは体調がかなり悪そうで来年の任期末までもつのかと報道されていたし、ジョンソンはプレグジット(英国のEU離脱事案)で振り回されている印象が強かった。しかし一連の騒動の中で、メルケルはやっぱりやるなと思ったし、ジョンソンはけっこうやるなと思った。先日ジョンソンを話題にしたので、今回はメルケルです。

その4月3日の午後、戻ってきたメルケルはドイツ連邦首相府から国民あて発信した。この記録がドイツ政府のサイトにあり、ありがたいことに英語版が読める。私は5年近くも米国で働いていながら、英会話はてんで駄目だが、事務職だったので読むのはさほど苦にならない。


冒頭、元気ですと挨拶し、続いて二週間の自宅閉じこもりは楽ではなかったという。外とのつながりは電話とネットだけだった。自分のことはここまでで、いま高齢、疾病、隔離のさなかで辛い思いをしている人がいるとつないでから、今年のイースターは楽しむことができないという切り口で情勢判断を伝えている。

国内のユダヤ人やムスリムも同じように苦しんでいると言い添え、将来のイースターを祝おうと最後のほうで述べた。どの国でも社会でも、非常時にリーダーが何をどう話すか、私たちは全身全霊で聞いている。強権発動だけが能ではない。メルケルと政権の支持率はこのあと上がった。


順序が逆になるが、この自宅での二週間の前、メルケルが行ったスピーチを、これもありがたいことに、在日本のドイツ連邦共和国大使館・総領事館が日本語で掲載して下さっている。


まずは、ちらっと3月15日の記録をのぞく。「私たちの国は連邦制です」とある。邦が集まった国です。だから、「あとは知事、よろしく頼む」では事は済まない。

従って、「各州とは、この月曜から各州首相府長官と定期的な協議を進め調整の緊密化を図っていくことにしました。郡や市とも連携を強化していきます。このように仕事のやり方を変えています」とある。


このようにして、メルケルの言葉は、各州や各宗徒に届く。次の3月18日のテレビ演説は、「第二次世界大戦以来の試練」という言葉を含み、日本でも報道された。それに続いて、現状、事態がいかに深刻であるかを説明し、それから猿真似しても何も伝わらない印象的な一節がある。そのあとに続けて、もう一つ。

この機会に何よりもまず、医師、看護師、あるいはその他の役割を担い、医療機関をはじめ我が国の医療体制で活動してくださっている皆さんに呼びかけたいと思います。皆さんは、この闘いの最前線に立ち、誰よりも先に患者さんと向き合い、感染がいかに重症化しうるかも目の当たりにされています。そして来る日も来る日もご自身の仕事を引き受け、人々のために働いておられます。皆さんが果たされる貢献はとてつもなく大きなものであり、その働きに心より御礼を申し上げます。

さてここで、感謝される機会が日頃あまりにも少ない方々にも、謝意を述べたいと思います。スーパーのレジ係や商品棚の補充担当として働く皆さんは、現下の状況において最も大変な仕事の一つを担っています。皆さんが、人々のために働いてくださり、社会生活の機能を維持してくださっていることに、感謝を申し上げます。


ドイツでは知らんが日本では、どきどき怒鳴られているらしい人たちだ。最後の記事に、「自宅隔離中のメルケル首相は3月28日、自身のオーディオポッドキャストを通じ、新型コロナウイルス感染拡大阻止に向け導入されたルールを市民が徹底して守っていることへの感謝を表明しました」という説明がある。

「ほとんどの市民が行動を大きく変えた」と認め、そのことに「とにかく心から深くありがとうと言いたい」と語っているのだが、自宅にいてよく分かるなと思いつつ、これでは一部の先に感謝されてしまった人たちも、考えを改めようかとも思うだろう。ひたすら「一層の行動変容を」と言われるよりは効果があるはずなのだ。私たち、単純なんだから。


もう一度、3月18日のテレビ演説に戻り、メルケルの民主主義論を聴く。「我が国は民主主義国家です。私たちの活力の源は強制ではなく、知識の共有と参加です。現在直面しているのは、まさに歴史的課題であり、結束してはじめて乗り越えていけるのです」。これは憲法記念日に、毎日新聞の社説にも載った。

ドイツも今なお試行錯誤の中にあり、英仏伊西ほどではないようだが病死者も増えている。ドイツは中小政党の連立政権が伝統で、メルケルには政敵も多かろう。ジョンソンも然り。それに二人の政策を知り尽くしてこれを書いているわけではないし、いたずらに英雄視するつもりもない。でも一瞬は立ち止まって、耳を傾けるだけのことはある。



(おわり)



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そろそろ新緑の季節  (2020年4月3日撮影)
























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