おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

映画「新聞記者」  (第1207回)

 しばらく前に書きましたように、最近、好きな映画をシネマまで観に行くお金も体力も尽きてきて、これでは人生つまらんと思い、時には観に行くことにした。復活の第一号が「主戦場」、次はこの「新聞記者」を選んだ。

 こちらも現時点でまだ上映中の作品なので、ストーリーに立ち入るのはできるだけ避ける。ちなみに、私がこれを観た映画館は渋谷駅から、この暑いのにしばらく坂を登ったところにある館で、ロングランの本作よりも、封を切ったばかりの「東京裁判」の客が多かった。こちらにも興味あるが、腰痛持ちには長尺なんだよな。


 いきなり見終わった後の話から始める。帰宅して夕食後に、この作品の評価をインターネットで眺めていたら、映画評論家を名乗る者たちから、匿名のネット右翼に到るまで、そっくりのコピペ文明育ちのようで、エンターテインメントであることと、プロパガンダだという強調が並んでいる。

 要するにお遊びのフィクションであり、彼らが嫌いな人たちによる煽情的な作品に過ぎないということを、なぜか必死に書かないといけないらしい。これだけでも壮観です。試しに、「映画 新聞記者 プロパガンダ」で検索すると面白いほどのヒット数。ほとんどは読んでも面白くないが。


 然り、映画はエンターテインメントである。漫画もアニメも落語も、同じ意味で娯楽だが、単に馬鹿笑いして楽しむものではない。そういう根拠は、このサイトで、もう千回ぐらい書いてきました。だから、このたわごとは無視する。

 では、プロパガンダのほうがどうか。どうやら、この連中が愛用する「マスゴミ」という汚い言葉で表される組織なり媒体、あるいは、「自虐史観」(意味不明)とやらによる嘘っぱち広告だと言いたいらしい。まともに受け取る若者がいると困るので、これらを茶化すために書いている。

 
 内調が本当にこんなことをするかどうかは、権力の中枢にいなければ分かるはずもないから、これを紛い物と断定している人々は中枢にいらっしゃるのだろう。それならきっと、CIAやKGBのようなことを日本政府だってやっているという私の想像が正しいかどうか、お分かりのはずだ。せっかく共謀罪、作ったのに捜査機関がなくては困るではないか。

 細菌化学兵器については、現実離れした設定でも何でもない。オウムのVXガスも、テロに使われた炭疽菌も、米軍がベトナムでばらまいた枯葉剤も、私が生まれて以降の出来事です。


 想像の域を出ないが、映画に出てきたダグウェイの羊事件のような実験は、おそらくアメリカに今も少なからずありそうな気がする。カリフォルニアに住んでいたころは、周りの州も含めて広大な土漠や草原が広がっており、あてもなく車で走りまわっておりました。

 ときどき、何の立て看板もなく、周囲を壁やフェンスで囲んだ施設があり、米軍の警告だけが掲げられている。入らないほうが身のためだという趣旨のことが書いてあります。ロスアラモスの子孫はきっと健在だ。


 その米国駐在時代、余りに英語が下手な私は、週一回のペースで家庭教師について教わった時期があり、過酷な宿題が出ました。毎日、三大ネットワークのTVニュースを最低30分は見て、毎回、その概要を報告せよという拷問です。

 しかし、これは実際、外国語の勉強には有益であることを保証する。キャスターはきれいな言葉を話す。その国の政治経済社会の情報に触れる。何より、タイトルのテロップと画面があるから、何について喋っているかくらいは見当がつく。


 ある日のニュースで、今日からデビューという若手の紹介があった。ブルネットの娘さんだった。両脇のベテランに、どういうジャーナリストになりたいかと質問され(日本では、よろしくとしか言わない)、彼女は即座に「カール・バーンスタインと、ボブ・ウッドワード」と答えた。巨大な夢だなと笑われておりました。

 この映画の原作は、ただ一人の新聞記者が書いた本だそうで、いずれそれも読むつもり。一人だけでは大変だ。バーンスタインとウッドワードも、若くて二人がかりで走り回ったからこそのスクープだった。無理せず、まだなら良い相棒を見つけてください。映画でも、周囲がだんだんと助けてくれるようになった。


 テレビ・ドラマは全く観ないし、映画もご無沙汰とあって、俳優は一人を除いて初めての顔と名前ばかりという、時代遅れのわたくしです。松坂桃李だけは仕事の関係で、むかし労働基準監督官を演じていたドラマをみた覚えがある。当時は線が細かったが、がんばっているな。シムさんは本当に初めて。熱演でした。特にあの疲れ方。

 ほかの役者さんたちは知らないが、それぞれ難しい役を落ち着いてこなしていたから、きっと舞台の経験などが豊かなキャストなのだろう。映画の最後は、将来や私生活に脅しをかけるという、腐敗した政権や犯罪者の常とう手段に邪魔されるのだが、新聞記者たるもの、次のディープ・スロートを探さなくてはならない。ご健闘を祈る。



(おわり)




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拙宅の近所はなぜか年中バラが咲いている
(2019年7月26日撮影)








 花瓶に水をあげましょう 心のずっと奥のほう

    「情熱の薔薇」  THE BLUE HEARTS

















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