おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

主戦場の続き  (第1203回)

f:id:TeramotoM:20190808181928j:plain 油蝉が廊下にいる


前回のテーマ、映画「古戦場」の感想文を続けます。先ずはタイトルから話題にする。監督が日系アメリカ人ということもあってか、映画には公式に英語の題名もサブ・タイトル的に付いている。”The Main Battleground of the Comfort Women Issue”。

以下は、監督ほか制作側の意図とは関係なく、私が夏休みの自由研究として考えたものです。一般に、英語の「of」は学校で「~の」と習う。しかし、通常は、所有や所属を示す「アポストロフィー”S”」と比較し、”of”は多種多様な意味を持つ。詳しくは辞書でご覧ください。


一例として、同格・同等のものを並べるときもあり、つまり「すなわち」の”or”と似た用法がある。典型は、”United States of America”です。アメリカの合衆国ではない。アメリカという名で、複数の州が統合された国というような意味だ。

こんなふうに、ややこしく考えんでも、上記の英語タイトルは、慰安婦問題の主戦場と直訳して何ら問題ない。さらに映画では、またも誰の発言だったか覚えていないが、これからこの慰安婦問題の戦場は、アメリカとなるという趣旨のセリフがあった。でも何か引っかかる。

なお、この作品内の発言者は、半分ぐらいしか名前を知らない。元々、政治・言論には興味が薄いと申し上げたとおり。でも、最近はWTOまで巻き込んだ国際問題になっているし、後述する他の諸事情もあって無関心ではいられない。


主たる戦場があるということは、字義からして、主ではない戦場もあるということであり、また同時に、複数の戦場を持つ大きな戦いがあることを意味する。確かにこの映画は、慰安婦問題に限らず、最近なにかと揉め事が多い日韓両国と、通商上・国防上の関係が深い、アメリカのグレンデールで開幕する。

では、映画の舞台が米国で終始するかというと、むしろ逆で、話は日本国内の事情に収斂していくような構成になっている。最後のほうのチャプターに、その名と関係者が登場する。日本会議。関係者名簿を堂々とネットでも公開しており、神主や経営者からなるロビイストと、政治屋の集合体であることが歴然としている。


右翼の論者が、詳細を説明することなくよく主張することの一つに、日本の憲法ほど政教分離の規定が厳しいものは世界にないというものがある。その通りだったとしても、この国が20世紀半ばに国家神道と軍事政権の結託により起こした惨禍のことを考えれば、あって当然の条項なのだ。伯父を戦場で殺したのは米軍であり、また日本軍でもある。

そうでなくても、この国はこの人たちが好きな天皇家が統治する時代の遠い昔から、政治と祭事はいずれも「まつりごと」と一緒くたにされやすい。最新の改憲案に、この条項が含まれていないのは、連立与党に公明党があるため、逆に歯止めになっているはずだ。


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この日本会議という団体は、私にはいまだによく分からない代物で、何とか独学で学ぼうと思い、よく売れていると評判だった菅野完著「日本会議の研究」および青木理著「日本会議の正体」を買ってきて読んだ。

一応はその発展の経緯、当初の思想的な背景、運動熱心な割に閉鎖的で排他的であること、何より自主憲法を持つべしというのが至上命題らしいといったあたりは、ぼんやりと分かってきた。だが、日常、何をやっているのか、何を話し合っているのか、それとも寄り集まるだけで圧力団体になり得ているのか、どうにも雲をつかむような話。


あまりこういうことにクビを突っ込まないほうが良いとは感じる。実際この映画に出て来た憲法学者小林節教授は、日本会議を「怖い」と表現していたし、現政権の改憲案に反対していることについて、事故が起きて死ぬかもしれないという覚悟までお示しだ。

わたしもこういうことをブログその他に書くようになってから、家族からは駅のホームの前のほうを歩いたり立ったりするなと本気で言われているし、本来、薄利多売の零細個人事業だから、感情や利害が絡む政治や宗教を、公然と語るのはご法度なのだ。

最近そのせいか契約先も、仕事仲間との付き合いも自然と減った。これをお読みなら心当たりがあるだろう、きっと。私も含め今の日本人が、役人らの忖度を弾劾するのは、自分達がやっているから、その醜さをよくご存じだからです。


上記の青木氏は、取材を進めていくうちに、緘口令が敷かれたと複数個所で書いており、中には、いったん面談の約束をもらった相手から、日本会議からの連絡があったので会えないと反古にされた件もあった由。

これとよく似たことを、映画「主戦場」の公式サイトに貼ってあるYouTubeの映像で、ミキ・デザキ監督が語っている。一部の出演者からは、取材時や更に試写会のあとでさえ、激励のメールなどを頂戴していた。今その人たちから名誉棄損で裁判沙汰を起こされようとしているらしい。次の主戦場は、民事訴訟かもしれない。


本ブログは、そもそも漫画「20世紀少年」の感想文なので、真面目な話題だろうと何だろうと、この作品にかこつけて一言いうのを常としている。愛読者におかれてはご存じのように、キリコに求愛していた諸星さんは、駅のプラットフォームの前方で電車を待っていたため、悲惨なことになった。気を付けよう。

漫画「20世紀少年」の連載は1997年開始で、時代設定も過去は少年時代、現代は同時進行の1997年になっている。当時の作者(浦沢直樹氏)がご存じだったとは到底思えないが、日本会議の設立は1997年のことだ。そして、翌98年に行われた決起大会で、武道館をほぼ満員にしている。俺の人生に偶然はないとオッチョは言った。


この1997年という西暦年は、映画「主戦場」に出てくる。1997年において、日本国内の全ての中学校教科書には、慰安婦問題の記載があった。2006年、教育基本法が改正され、教科書の検定が厳しくなった。2012年になると、全ての教科書から慰安婦に関する記述が消えた。

教育基本法の変化については、文部科学省が作った新旧対照表がある。「彼ら」の好きな言葉が並んでいる。議席の「三分の二」がなくても、教育基本法の改正や、集団的自衛権の法制化は可能であり、実態上は子供たちも、法律上は自衛隊員も、政治活動をすることができない。
http://www.mext.go.jp/b_menu/kihon/about/06121913/002.pdf





(おわり)



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拙宅の夕顔  (2019年7月16日撮影)



 We are strong.
 No one can tell us
 we are wrong.

    ”Love is a Battlefield”  Pat Benater













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