おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

この世界の片隅に 【後半】  (第1178回)

 今朝のニュースでやっておりましたが、戦争を語り継ぐにも、おどろおどろしい写真や映像ばかりでは、これからの世代は目を背けてしまうだけではないだろうかと、いろいろ工夫をしているお方もいるらしい。私もそう思う。戦争や公害の写真集が小学校の図書館に、ぎっしりあった我等の時代とは違う。拒否反応を起こされては逆効果だ。そういう風に育てたのは私たち。

 とはいえ、まずはこのアニメのように遠回しで興味を持ってもらう機会があったとして、そのあとはどうする。何年か前に「はだしのゲン」の焚書坑儒運動があった。あれは読者が起こしたのではない。そして、本物の戦争を知る世代も老いた。そういう時代、例えば私のように神経が粗雑な人間が、記録の在りかやその断片を書いて残すというのも一法です。


 以下、残虐な文章などを読むと眠れなくなるというようなお方には向かないことを念押ししたうえで、本作に出てくる事柄に関連して、うちの本棚にある書籍から補足します。波がウサギに見えた哲は、巡洋艦「青葉」の乗組になり、マニラから戻って来た。大した活躍はないようなことを言っていた覚えがあるが、そう遠慮したものでもないぞ。良く働いた船だったのだ。

 「青葉」は日中戦争の時代に既に現役で、レイテ沖の海戦で満身創痍になり、修理に戻った呉で作品にも出てくるが度重なる空襲を受けて着座した。その長い現役活動の白眉は、1942年の第一次ソロモン海戦およびサボ沖海戦だろう。前者は日本軍の快勝で、後者は敗北だった。


 丹羽文雄「海戦」によると、旗艦「鳥海」に従軍記者として乗船していた丹羽さんは、「青葉」から飛び立った偵察機が、ツラギ島沖で敵船六隻が炎上しているという哨戒報告を聴いた。ラバウル航空隊が、雷撃したもので、このあと船団は夜襲で米豪の軍艦をさらに沈める。

 サボ島の沖で、この返り討ちに遭う。「青葉」は先頭を進んでいたのだが、戦闘配置もしていない状態で、敵戦隊の夜襲を受けた。しかも、相手は横並びのT字戦法で来たらしく、「青菜」は集中砲火を浴びた。特に、初弾をくらった艦橋や、第三砲台の被害が酷烈だった。


 以下、人が戦争でどのように死ぬかという幾つかの証言を、亀井宏「ガダルカナル戦記」から、ごく一部、引用する。初弾命中のあと、「そこら辺もうバラバラになっていましたからね。死傷者がゴロゴロしていますからね」。「だれがだれやらわかりゃせんです」。司令官も、「両脚をつけ根のところから切断したもんだから、出血多量で、まもなく亡くなられた」。

 別の人。「そのときである。前方から勢いよく駆けてくる兵を認めたが、身をかわすいとまもなく私にぶつかった」。「私は兵を見たが、瞬間、ハッと驚いた。その兵には頭が無かった。頭の吹き飛んだ兵が駆けてきたのである」。後に分かったのだが、その兵は証言者の従兵で、長らく善良にお勤めしてくれた二等水曹だった。


 このアニメ作品には、海軍の象徴、戦艦「大和」が出てくる。愚劣極まる特別攻撃の象徴でもある。偉い人は乗らないのだ。この戦艦を、海軍は使いこなせなかった。私が知る限り、「大和」がその巨砲で相手の船を沈めた実績はない。

 最後の出陣の様子は、吉田満戦艦大和ノ最期」に詳しい。この本にある単純事実関係の誤りをあげつらって、本書や著者を全面否定しようとしているネットの書き込みを幾つか読んだが、かえって本書に描かれている「大和」の出陣から沈没後に至るまでの、将兵の生々しい言動の数々など、絶望の戦場で人が如何に振舞うかについての真実味を強調し、裏書きしているようなものだ。


 広島や長崎の原子爆弾については、何回か前にここでも挙げた「原爆投下 黙殺された極秘情報」に幾つかの証言が出てくる。以下、長崎で救助にかけつけた歴戦の戦闘機乗り、本田稔氏による。

 「肉の塊が横積みしてあるんです。髪の毛もなければ目もない。それは二十ほどあったでしょうか。それを担架で運ぶのですが、持てないんです。手で持ったらぬるっとなって、肉がはずれてしまう。何のために戦争したのかと思ったんですよ。国民をこんな状態に陥れて、何が戦争かと思いました」。本田さんはDVDにも出てきて泣いている。


 もう一つ、今日はこれが最後だから頑張ろう。同書には、広島の被爆から四日後に被爆地入りした、医学専門学校の学生だった門田可宗氏の手記の概要も引用されている。「そして八月十九日には、門田さんを不安に陥れる症状が現れる。体中に多数の出血斑が出たのだ。出血斑は皮下出血ともいわれ、血小板が減少することで出血を起こしやすくなる被爆者特有の症状のひとつ」。

 こういう記録はどうしても辛くて読めないという方は(責めません、こんな調子だし、これでもほんの一部だし)、せめて「この世界の片隅に」を観たあとで、すずが何を失ったのか、すみはこれから大丈夫なのかと、お考えになってみてはいかがだろうか。今日は黙祷をして、静かに過ごします。




(おわり)





台風が抜けると、東京の空もきれいになる。
(2018年8月11日撮影)





War is over if you want it. - John and Yoko














































.