おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

東京オリンピックは10月にやろう  (第1169回)


 お暑うございます。高温記録の更新ラッシュだそうです。2年後のちょうど、この時期に始まる東京オリンピックパラリンピックは、このような猛暑の中で実施して大丈夫なのかという声が、すでに海外からも寄せられているとか。特に心配なのは何と申しましてもマラソンです。親戚の競歩とともに、先日、競技開始時間の繰り上げが決まりました。

 この調整が大変だった理由の一つとして、NHKの朝のニュースでは「国内外のテレビ局」の意向もあったと報道されていました。主たる当事者がこう言うのですから、本当でしょう。

 推測ですが、アメリカのTV業界は、CMをたくさん見えてもらえる時間帯を強要してきて、一方、日本側はせめて日本人が起きている時間帯でないと、ますます視聴者離れが進んでしまうから困るというような、手に汗握る攻防があったに違いない。


 その時間帯なら、この時期でも大丈夫なのか。以下、生活実感を以てお伝えいたします。東京に出てきて三十余年、当時と比べて都心は夏が暑くなっただけではなく(それだけの印象なら年齢のせいかもれない)、私が苦手な冬の寒さも和らいだ。念のため、江戸っ子の要件を満たす、祖父母の代から東京暮らしの知人複数にも訊きましたが同意見です。

 まず、風が吹かなくなった。これは想像ですが、臨海に高層建築物を並べたため、海風が午前中に吹かなくなったのではないか。実際、数年前に東京駅を改築したとき、これ以上、海風の通りを邪魔しないように工夫したと新聞にも出ていた記憶があります。また、熱帯密林と異なり、水蒸気も昇らないコンクリート・ジャングルには、夕立も降らない。


 そして、お馴染みのヒート・アイランド現象。その東京駅を丸ごと冷房します。人間がいるあらゆる場所を(なぜか小中学校は例外だそうですが)、場合によっては24時間、冷やしている。夜も気温が下がりません。当家のようなマンション住まいは、冬の生活暖房には助かりますが、夏はエアコンから出る熱風でお互いを苦しめています。

 うちからマラソンの折り返し地点になる浅草まで、遠いけれど歩ける距離です。先ほどのとおり、マラソンの出発は朝7時とのことですが、私の場合、朝6時に起きて換気のため窓を開けると、すでにヘア・ドライアーのような風が吹き込んできます。

 この時刻でも、もうとっくに、自動車も電車も外を走り回っています。朝7時前の気象情報では、この時間帯の気温が概ね30度です。選手が疲れてくる2時間後には、更に高温になる。

 なお、気象庁が発表する気温は、同庁のサイトによると風通しがよく、「直射日光が当たらない」よう設置した温度計で計測します。そして、私たちの体温は通常、気温より高く、つまり体温を上げる機能を持っていますが、下げるのは苦手なはずです。ライオンも昼間は寝ている。


 この懸念に対し、政府・専門家が考案した必殺技は、打ち水であるという。風流なのは結構ですが、これはおもてなしというより焼け石に水になりませんか。それより、確か熱中症には、高温だけではなく多湿も危険だと伺っておりますが、大丈夫でしょうか。

 私は安全衛生の仕事もしております。前例が足りない事態に対する安全対策の鉄則は、安全策を採ることです。福島の原発を襲った津波を思い出しましょう。防潮堤の高さや、発電施設の配列等々、このままでは危ないという声が前々からあったそうですが、無視されたと聞いております。この手の出来事の恐ろしさは、「蓋を開けてみないと分からない」ということです。


 なぜ7〜8月に開催するのか。リテラによると既に、2020年大会の企画時点(入札条件)で、この時期設定は決まっていたそうですから(それは、これだけの事業ですからそうなのでしょう)、日本はそれを承知で手をあげたので、言い逃れはできないということになります。

 でも延期は不可能ではないはずだ。制裁金だろうと不名誉だろうと、人の命には代えられない。9月に入ってからも暑いですから、パラリンピックも心配です。そもそも欧米人のバカンスの季節に合わせるのも、いい加減にして、ここは一波乱起こし、我が国の独断専行で先延ばしにしましょう。

 1964年の東京オリンピックの開催日は、10月10日、のちの体育の日でした。この時期が選ばれた理由は、統計的に一番、天候が安定していて雨が少なかったから。昔の人のほうが、よっぽど合理的ではありませんか。外を歩かない人たちが考えると、ろくなことはない。


 マラソン・コースに設定されている大通りは、日常的に仕事や雑用で歩きます。中央、日比谷、外堀、内堀の各通りは、広いだけに太陽の位置によっては、ビルの影さえ落ちないかもしれません。この夏が、格段に暑いのは確かですが、それは二年後に涼しくなる担保にはなり得ません。
 
 猛暑は東京や関東だけではありませんので、少なくとも日本全土レベルの事態ですし、そうなると海風やヒート・アイランドだけでは説明不足です。エルニーニョだか何だか知らんが太平洋の機嫌が悪いのか、氷河期の端境期に向かっているのか、太陽黒点のせいなのか、そもそも原因が分かっても、暑いものは暑い。


 あと二年のタイミングで、前倒しは無理だと思いますが、先延ばしは選手にとっても工事関係者にとっても、それほど悪影響があることとは思えせんが如何でしょう。それに、できればこの夏、それが無理なら来年のこの時期に、実際に国際レベルの選手に走ってもらって感想を聞いてみてはどうか。

 そもそもスポーツは体に悪い。体質体格が適しているはずの、一流選手ほど無理がたたって故障します。野生動物から見れば、不自然そのもののルールに縛られた動きを、ライバルより激しくやらなければなりません。人間の身体も気力も、本来は42.195キロも走るようにできているとは思えない。私では自転車で走っても無理。マラトンの使者は、そのあと、どうなったか。


 無理を承知であれこれ書いていますが、こういう心配や議論を、体感的な危機感と共にできるのも、また、時間的に思い切った決断ができるのも、今が最後のチャンスではないかと考えます。苦しい練習に堪えてきた選手たちが、次々と暑さで脱落するようなレース展開はみたくありません。

 かつては、オリンピックに政治を持ち込むなと言われました。今は、オリンピック・パラリンピックに商売を持ち込むなと言わなければならなくなった。叶う限り最高の競技環境を準備してお待ちするのが、開催地の責務であり礼節というものです。




(おわり)




せめて当日は曇りますように。
(2018年7月9日撮影)







 西瓜を食べてた 夏休み
 水まきしたっけ 夏休み
 ひまわり 夕立 蝉の声

       「夏休み」 吉田拓郎































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