おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

マラソン・ランナーの孤独  (第1143回)

 私が子供のころ、円谷という変わった名前の偉人が二人おりました。一人は特撮の達人、円谷英二。もう一人は陸上長距離ランナーの円谷幸吉。いずれも、何度かこのブログにお出ましいただいた。今日は幸吉さんの話題。本日1月9日は彼の命日。

 1964年の東京オリンピックは、私が4歳になる直前の秋に行われた。次の2020年大会は真夏だそうだが、この鋼鉄とガラスとコンクリートでできた現代のヒート・アイランド東京で、フル・マラソンを走って大丈夫なのだろうか。似たようなコースをたどる東京マラソンは、例年2月なのに。客の入りを考えての時期設定ですか。


 白黒テレビにかじりついて離れなかったというのが、東京オリンピック(初代)のときの私の有り様であったと親が言う。円谷がヒートリーに抜かれた場面も見ているはずで、でも、そのあと何十回も録画を観ているから、本番の記憶があるのかないのかもわからん。ヒートリーに抜かれて、ちょっと驚いているようだ。

 次の大会で二位に入った鉄人君原を始め、日本のマラソン界は、ユニークで強いランナーを輩出してきている。それでも私にとっては、いつまでたってもアベベと円谷がヒーローだ。先日、仕事で代々木方面にいったときも、わざわざ遠回りして国立競技場を見上げてきた。その日は静かだった。


 あの日、円谷やアベベたちが甲州街道を走ったということを知ったのは、その甲州街道に面したマンションに一人暮らしをしていたときだ。十数年前か。代々木から21キロ走って折り返したその道を、毎日、知らずに歩いていた。

 一応、確かめたくなり、当時、週末ごとにお世話になっていた近所のクリーニング屋のご老人に訊いてみた。翁はそのころ大人気だった「冬のソナタ」のファンで、「君の名は」(初代)を懐かしく思い出すという御方だった。返答は必要十分なもので、「アベベ、そこを走って行ったよ」というものであった。


 本日は私の愛読書を二つ、取り上げます。一つは柄にもなく古典「おくのほそ道」松尾芭蕉。正直申し上げて俳句は苦手だが、地理が好きなのでよく読む。芭蕉が拙宅に近い千住の船着き場から奥州に向かって旅立ったのは、新暦でいうと5月の中旬。6月に今の福島県にたどり着いている。

 ここで数日を過ごしているから、よほど気に入ったのだろう。三年ほど前に私が一泊二日の旅程で歩いた白河や郡山のあたり。二人の円谷さんは、この地にある須賀川のご出身だ。芭蕉は、白河の関を越えて旅情も深まったか、それに季節もよくて田植えの句を詠んでいる。「おくのほそ道」で、初めて「おく」の字が出てくる句だ。

 風流の初やおくの田植うた

 本日のタイトルは、学生時代から好きだったアラン・シリトーの小説「長距離走者の孤独」の剽窃である。イングランドの小説や映画は、どうもスノッブで苦手なのだが、これは一味違う。翻訳がいい。丸谷才一だもんね。先日、帰省したときも、実家で読みました。あの独特の表紙もいい。長くないのもいい。

 イギリスは階級社会だ。私がこの作品と、ビートルズが好きなのは、あえて共通点をさぐれば、私も生まれてこのかたその一員である労働者階級に関わりがあるのかもしれない。円谷幸吉ジョン・レノンは同い年。そして悲劇の死。


 円谷の遺書に、「喜久蔵兄、姉上様、ブドウ液、養命酒 美味しゆうございました。又いつも洗濯ありがとうございました。」という一節がある。ブドウ液というのは、ワインのことかなあ。養命酒は、私も毎日おいしゅういただいております。

 この喜久蔵兄さんが、昨日の東京新聞の朝刊に、没後50年ということで取材を受けた記事が載っている。1968年はメキシコ・オリンピックの年で、その直前ともいうべき時期に彼がいなくなってしまい、小学校のクラスまで騒然となったのを覚えている。


 無断で引用しておいて、勝手なお願いだが、東京新聞さんにおかれては、少なくとも次の東京オリンピックまではアップしておいていただきたいと存じます。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/ltr1964/list/CK2018010802000100.html

 文中にあるように、円谷選手は支えであった畠野コーチと引き離されてしまい、「寂しかったんです。孤独だったんです。それが致命傷でした。」というのが、ご家族の実感だ。「身長163センチ、体重53.5キロ」か。体格が良いためか、もっと大きく見える。後輩の敢闘を祈る。


(おわり)




新春、夕暮れの上野公園  (2018年1月6日撮影)












 How does it feel to be off the wall?
 一人にされて、どんな気分だ?

   ”Steel and Glass”  John Lennon




































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