おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

私を離さないで  (第1129回)

 先月(2019年9月)、お彼岸の墓参を兼ね所用で帰省したとき、母親が「日の名残り」を読んでいて、「あんた、カズオ・イシグロって、どう思う?」と訊かれた。私は映画で「日の名残り」と「私を離さないで」を観ただけで、翻訳を読んだことが無い。

 その映画の印象だけを以て、「どうも陰気でいかん」と応えました。別に陰湿とか陰険とかいう意味ではなく、ただ単に画像の明度の話で、なぜかイギリスの映像は、「シャーロック・ホームズ」も「ハリー・ポッター」も薄暗い。でもやっぱり、楽しいストーリーとは言えない。


 若い命が失われるという悲劇のモチーフは、おおむね業病か戦争を舞台装置に使うことが多いと思うのだが、さすがイシグロさんも畜産と肉食の国にお暮しのこともあってか、臓器移植とクローンという設定を持ち出してきた。それでいて、ジャンルはSFではなく、純文学のままだ。

 クローンを題材にしたフィクションに初めて接したのは、1980年代の初めごろ、大学時代に読んだ手塚治虫火の鳥」。もしかしたら、これでクローンという言葉を知ったのかもしれない。こちらもどうして、恐ろしい話なのだ。


 医学の倫理という難題より、そもそもその前に、この漫画の陰惨極まるイメージがたいへん強くて、漫画「20世紀少年」の高須光代氏が教祖の子を孕んだと言ったときも、かつて上司の万丈目が「体外受精」と語っていたにも拘わらず、このブログではクローンだと言い張った私。

 映画「エイリアン」の第4作にも、クローンの話題が出てくる。こちらも悲惨。とはいえ、生物の世界では決して珍しいことでも何でもない。多くの生き物は、親という厄介者を二人も持たずに済ませる方法を各種とりそろえて持っている。


 植物は基本的に不死である、と前に書いたような気もする。私見ではなくて、植物学者がそう書いていたのを覚えている。火事や虫害で枯死することはあるが、津波で倒されても若芽を吹くのが植物というもので、動物とは生命の概念が違う。

 アリマキのような単性生殖も、自発的で一人作業のクローンづくりみたいなものだろう。拙宅はマンションの中層階にあり、ここまでアブラムシ夫妻が階段を上って来るとは思えないので、たぶん風に吹かれて飛ばされてきては、うちの園芸に被害をもたらす。もっとも、その挙句に退治されるほうも災難だが。


 原題の「Never Let Me Go」は、「私を離さないで」でも勿論いいが(実際に、急流に翻弄されるイメージが出てくるし)、「私を止めて」でも良いよなとペーパーバックの原書を読んで思った。行きたくないところへ行く運命なのだから。とはいえ最後のシーンで、また気が変わった。

 小説も映画も同じような場面で終わるのだが、主人公たちが乗り越えることができなかった鉄条網のフェンスが目の前にある。それにビニールやら何やらのゴミが引っかかって強い風に吹き飛ばされそうになっている。離さないでと言っているようにみえる。


 石黒さんは村上春樹とお互い認め合う仲だそうで、お二方とも見てくれといい作風といい、如何にも育ちが良さそうだ。あの喪失感へのこだわりのようなもの、私のような生まれついての貧乏人には、ちょっと実感し難いものがある。

 ともあれ、陰気だと言った途端に文学賞。私が長年、変人と言い続けてきたボブ・ディランに続いた。ノーベル委員会とは話が合わない。村上さんの悪口を言えば、受賞するだろうか。




(おわり)




本日撮影 お代は7.99英ポンド也














It's a love that lasts forever.

   ”Don't Let Me Down”  The Beatles


















































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