おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

FENCEの向こうのアメリカ  (第1088回)

 古来、バカと煙は高いところが好きだと言われている。例えば、漫画ではVX風の外装をもつタワーを建てて喜んでいる世界大統領とか、旧約聖書ではバベルの塔とか、マンハッタンではトランプ・タワーとか、いずれそのうち天に滅ぼされるのだが邪魔である。

 最近の私は、自分よりもおバカな奴がアメリカ大統領になるという歴史の奇跡に立ち会うことになり、ネタが尽きないということもあって、ここの主役になっていただいている。念のため、単に遊んでいるだけではない。危険人物を見張っているのだ。これでも。


 先月、毎日新聞の朝刊一面、しかもトップ記事に、「壁できても掘る」という見出しを見つけて一人で笑った。内容は笑いごとではないのだが、可笑しいものは可笑しい。どこにでもいるのだ、不屈のオッチョおじさんは。

 記事を読んでいて思い出したのは、ショーグンが思い出話に語っていた映画「大脱走」に出てくるナチス・ドイツの捕虜、米軍パイロットのヒルツ(スティーブ・マクイーン)と、スコットランドで騎手をしていたというアイブスのモグラ作戦。

 
 初めのうち二人は、収容所の主要メンバーが企画する大脱走計画には乗らず、お先に失礼という感じで二人だけの脱走を決行する。機関銃を撃ちまくる見張りの兵と、サーチ・ライトで厳重に監視されている鉄条網が絡んだフェンスの下に穴を掘って逃げようとした。

 結局、とっつかまって独房に戻され、アイブスの悲劇が始まるのだが、後にヒルツは一人で仇を討つ。しかも関東城の壁を、偽造手形で通過したケンヂのように、一人で逃げ去ることなく周辺情報を手に入れて、収容所に戻って来た。


 その新聞記事を読んだときは、こんな名案を米国のともだち日本に喋ってしまっていいのかと思ったが、考えてみれば、この程度のことはアメリカも先刻ご承知であろう。むしろ、こう言っておけばアメリカ側も面子があるから、一層、金と人を使って立派な壁を造らないといけない。威力営業妨害。

 なお、インタビューに応じたのは、関東軍の城外から不法入国者を城内に送り込んでいたスペードの市と同業者である。故郷を捨てて、危ない橋を渡り、異国の地で働かないといけない人たちの手助けをしている。こういう人たちの辛さを、トランプと私は実感ができない。


 国境の南。アメリカの古い歌で、メキシコのことだ。村上春樹の「国境の南、太陽の西」に出てくる。私は太陽の西というロシアの話が好きなのだが、話すと長くなるので、またいつか。それより壁の話である。

 村上春樹イスラエルで壁と卵の話をした。たとえ壁が正しくても、必ず卵の味方になると言った。という話は有名になったが、それより、彼のスピーチで印象に残っているのは、私の伯父と似て、徴兵で中国戦線に送られたという亡父の祈りの話だ。あのときの聴衆は、嘆きの壁を想い起しただろうか。


 アメリカとイスラエルは仲がよい。経済的、軍事的な理由もあるのだろうが、なんせ先住民を滅ぼしつくして居座ったという建国の歴史を分かち合っている。しかし悪意以て作られた壁は、いつの日か打ち倒されるであろう。かつてのベルリンの壁のように。

 白人種も自分たちは旅券なし査証なしで、世界中に植民地を勝手に作って金持ち国家になったのだから、今さら不法入国もへったくれもないだろうに、と言いたいところだが書くだけにする。ヒラリーの私用メールは犯罪で、私用ツイッターなら何を言ってもいいのかな。気が合うかもしれん。





(おわり)





紅梅 (2017年2月19日撮影)





 せめて肩の重荷
 下ろすことができたら
 かえりたい
 Hometown Suite,
 Hometown Suite.


  「FENCEの向こうのアメリカ」

     柳ジョージ&レイニーウッド
















































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