おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

風と雨の詩  (第1075回)

 これは漫画と映画の感想文サイトなのだが、最近、妙なところに力が入っている。ボブ・ディランの「風に吹かれて」や「激しい雨が降る」の歌詞を読んでいて、生物や気象や地理で使う言葉が本当によく出てくるなあと思った。

 ブルースやカントリーの本場だけあって、フォークもロックもアメリカ産は土着的である。数えたわけではないが、ブリティッシュ・ロックには少ない。月の子を歌ったグレッグ・レイクは死んでしまったな。さよなら。

 ビートルズは代名詞と抽象名詞のオン・パレードで、特にジョン・レノンの歌詞が徹底している。これだから世界中で好かれる。ストーンズの歌と違い、地名も出てこない。流石にインドの大地には圧倒されたようで、あそこで作った「ディア・プルーデンス」や「マザー・ネイチャーズ・サン」には土の匂いがする。


 映画では、北海道でケンヂが立ち直ったところに触れました。彼は廃品回収を始めるのだが、バイクとギターに加えて、ラジオも拾い上げている。スイッチが入った。同じころ、オッチョもふんだくったラジオに、電池が切れずに残っているという幸運に恵まれた。これくらいチャンスに強くないと主役は張れない。

 ラジオは音質からして多分、AM放送。流れて来たのはDJコンチのリクエストを依頼する雄たけびと、クリーデンス・クリア・ウォーターリバイバルの”Have You Ever Seen The Rain?”。後にこの「雨を見たかい」の日本版シングル・レコードのカラー・ジャケットも映る。嬉しいねー。そう、ここは、誰かいるのか北海道。

 
 映画だけ観て、漫画をご覧になっていない方には、CCRも単なるBGMなのだが、漫画では、これにも深い訳がある。コンチが転校するときに、ケンヂが渡したカセット・テープは、CCRの曲が入っていたのだ。そのせいで、ずっと音楽まみれ(しかも、偏り切っている)の半生となったのだ。

 そのテープに「雨を見たかい」が入っていたかどうかは分からないのだが、CCRを語るに欠かせない代表曲である。LAで30年前に買ったベスト・アルバムのカセットは、賞味期限切れでテープが劣化した。聴いていると、ストラヴィンスキーを聞かされる拷問にかけられたような気分になるため、やむなく箱紙(上の写真)だけ残して捨てた。また買おう。今も人気があるのだ。


 この曲が反戦歌なのか、それともジョン・フォガティが由来を語ったという、バンドの危機を歌ったものなのかという論争があるらしい。お疲れさま。そんなの聴き手の自由だし、ロックの歌手が歴史的事実を語ってばかりいると思ったら大きな間違いだ。

 ともあれ、別のシングル・ヒット”Who'll Stop The Rain?”が反戦歌なら、題名から歌詞に至るまで兄弟姉妹の作品であることは疑いようもない”Have You Ever Seen The rain?”も反戦歌だろう。趣旨が明確な”Fortunate Son”と異なり、どちらも反戦の歌にも聞こえるし、天気予報の歌にも聞こえる。僕の名前はヤン坊


 それよりも、上記の「バンドの危機」説も、アメリカで放送禁止になったとかいう話も、記憶に間違いが無ければ、だいぶ前に日本語版のウィキペディアで読んだ覚えがある。日本語wikiは、近年、特に政治・軍事はもちろん、歴史や文化の領域にいたるまで、とみに右傾化が著しい。

 いまはもう「雨を見たかい」がウィキペディアから消えている。きっと、反戦歌なのだ、歌ってほしくない人にとっては。若い人は、本物の百科事典だと思って読むのだろうか。あれは検閲済み大本営発表ペディアになりつつある。雨はまだ降り続いているのだ。


 漫画20世紀少年に出てくるバンドや歌手、ウッドストックに出ていた連中は、おおむね第二次大戦のころ生まれ、朝鮮戦争のころ育ち、ベトナム戦争のころ成人した。ロック・ミュージックの生まれ育ちは、どうにも避けがたく政治的で、戦争抜きには語れない時代を背景としている。

 「ボブ・レノン」にも雨が出て来た。この漫画には、どこにも平和という言葉は出てこないように思うが、基地の仲間は誰も人を殺さない。普通の人たち。フォガティが唄ったように、上院議員の息子でもなく、百万長者の息子でもなく、高級軍人の息子でもなく、つまり運が悪かった。でも、ラジオが聴けたし、弾も当たらんし、ワクチンを打たないのに、殺人ウィルスに対する先天的な免疫を持つ。


 CCRの歌に出てくる ”Hail To The Chief”は、ヒトラーに敬礼ではなく、アメリカ大統領への挨拶の曲だ。原爆大統領のトルーマンも好きだったらしい。ミスタ・プレジデントがホワイトハウスに着任する際に、よく演奏されるというから、年明け間もなく、トランプさんのBGMに使われるだろう。ドナルド・ダックは、アニメでナチスと戦っている。ディズニーはおそらくヴァイキングの末裔で、好戦的な右翼として知られた。

 「冬のソナタ」から、早10年。北の大地に降る雨とてなく、ケンヂは水だけ飲んで、コンチのラジオ局を背に、風に吹かれ、風と共に去っていった。コンチのファッションは、今どこでこんなの売っているのだろうという感じの、全身ウッドストック調。平和と音楽の3日間。ともに出演したジャニス・ジョプリンCCRの活動は、ほぼ同時期で、しかも短い。






(おわり)






昨日は冬至 日の出も遅い  
(2016年12月21日撮影)









 Some folks are born made to wave the flag.
 Ooh, they're red, white and blue.
 And when the band plays "Hail to the chief",
 Ooh, they point the cannon at you, Lord.

 It ain't me, it ain't me,
 I ain't no senator's son.
 It ain't me, it ain't me,
 I ain't no fortunate one.

   ”Fortunate Son”  Creedence Clearwater Revival


































近所の町内掲示板にて  (2016年4月9日撮影)











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