おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

So long great one.  (第1028回)

 遠い昔の微かな記憶だが、テレビでジョー・フレ―ジャーの記者会見を観た覚えがある。当方は、まだ小学生だったか。アリに勝ったフレージャーは、背広姿だったから試合直後ではない。うろ覚えだが、こんなことを言っていた。私が勝手に、べらんめえ調で意訳します。

 殴り合っている最中だってえのに、アリの奴ぁ「俺はグレートだ、俺はグレートだ」なんぞと喋り続けるから、うるさくてしょうがねえ。だから云ってやったのさ。おめえの言いてえことは分かった。続きは俺に勝ってから聞かせな。

 
 アリが本当にそう言ったのか、そもそもフレージャーが会見でこのとおり語ったのか、今となっては確かめようもないが、そんなことはどうでも宜しい。アリは当時の私にとってのヒーローであり、負けたのが悔しかったのに、あれには笑った。

 もちろん小学生だって、世界ヘビー級のタイトルマッチとくれば、当たりどころが悪ければ大変なことになるということぐらい知っている。だからこそ試合の前も、終わったあともこんな調子なのだ。もちろん、こういう減らず口は、実力が伴わないとみじめなことになる。


 カシアス・クレイアベベ・ビキラが、ゴールド・メダリストになったローマ・オリンピックは、私が生まれた年の開催だから、全く記憶にない。次の東京大会では、アベベが連続優勝した。クレイはプロに転じ、年表によるとこの年にソニー・リストンを倒して世界王者になっている。改宗して、モハメド・アリという名に変わったのには驚いた。

 それ以降の活躍については、前にずいぶんと書いたので、ここで改めて繰り返さない。ここ数日で聞いた話だけに絞れば、われわれガキんちょがマネして遊んでいた「蝶のように舞い、蜂のように刺す」は、この対リストン戦のころ言い出したらしい。具志堅用高によれば「まねしようとしたが、まねできなかった」らしい(むろん小学生レベルではなく、プロのリング上でのことである)。


 漫画「あしたのジョー」では、対戦相手を見た丈が「鼻がつぶれているのは、防御が下手っぴーな証拠だ」というような指摘をして、丹下のおっちゃんを内心驚かせている。そのジョーを襲った運命と同じように、アリがパーキンソン病を患ったときも「パンチ・ドランカーになった」と報じられたものだ。悔しかったな、あれは。

 そのモハメド・アリに一度だけ会ったことがあるというジョー小泉氏によると、アリの顔立ちは端正で、殴られ続けたような顔ではなかったという。残る写真は古いものばかりだが、なるほどアリの顔は、青痣と絆創膏が絶えなかった矢吹とは違う。最後に実況で彼を見たのはアトランタ・オリンピックの開会式だった。

 そのあとの金メダルの再授与式は録画で見た。すでにアリは言葉を話せなくなっていたが、バスケット・ボールの会場では一人で歩き、メダルを受け取った(川に投げ捨てたというのは作り話で、彼は単に失くした由)。そのあとアメリカとユーゴスラビアのバスケ・チームと記念撮影までしている。いいな。


 ボウリングにも神様がいて、その神様にはレーンに舞い降りた女神なる相棒もいる。マイク・タイソンによれば、どうやら拳闘にも神様がおみえになるそうで、そちらの神様には「彼のチャンピオン」がいるのだという。このたびは、神様がその王者をお迎えに来たらしい。フレージャーが続きを待ちかねておろう。

 カツオのじいちゃんの雄たけびが聞こえる。ボンバイエ。こと、スポーツに関する限り、私は本当にいい時代に生まれ育ったと思う。





(この稿おわり)






鳶 真鶴岬  (2016年6月4日撮影)







 God came for his champion.
 So long great one.

    So tweeted Mike Tyson on June 4, 2016.





 Sting like a bee, babe I wanna be your man.

     ”20th Century Boy” T. Rex 



























































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