おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

家にたどりつけるかな  (第1017回)

 日本語の「家」も、英語の「ホーム」も多義で、家屋(ハウスと同じ)という意味もあるし、家庭(ファミリーと暮らすところ)という意味もある。これを区別する必要がないからでもあるが、最近そうでもなくて東京都の世帯ごとの平均人数が二人を切った。全国でも三人を切っている。一人暮らしが多数派になった。

 私も通算で一人暮らしは十数年の経験があり、全て借家住まいだった。学生時代の下宿か、社会人になってからの独身時代。そういうときは怠惰または多忙のため、機能的には寝ぐらに等しかったこともあってか、「うち」と呼ぶ気にはなれなかったように思う。


 英語の「home」はもう少し広い概念で、例えばサッカーでおなじみの本拠地という意味合いでも使われる。野球では昔フランチャイズと呼んでいたのだが、コンビニ業界の勢いに押されてか、ホーム・グラウンドと呼ぶようになった。こちらのほうが良いと思うけれども、他方で、コンビニ本社が、フランチャイズ店を本拠地と考えているかどうかについては、漫画の大竹と遠藤の会話に詳しい。

 ホームには故郷というノスタルジックな意味もある。スイート・ホーム・シカゴ。テイク・ミー・ホーム、カントリー・ロードE.T. phone home。ホーム・シックをお父ちゃんお母ちゃんが恋しいと勘違いしているのを時々みかけるが、かつて郷愁と呼んだとおりで、こちらのホームは本来、遠きにありておもうもの、ふるさとのことです。


 「ゴールデン・スランバーズ」でポール・マッカートニーは、”Once there was a way to get back home”と歌った。相手がホーム・シックで泣いているので、子守唄を歌おう、目が覚めれば笑顔が戻ると言うマザー・グース的な優しさに溢れておる。やはりビートルズは分かりやすい。

 同じような意味合いで言葉を選んでいると思うのだが、ボブ・ディランに言わせると”no directon home”となる。映画「20世紀少年」で秘密基地の仲間に、変な歌と評価されてしまった「Like a Rolling Stone」の一節である。まだ観ていないが、彼の伝記映画のタイトルでもある。この句を選んだか。


 ”direction”というと訳語は、「方向」というイメージが湧くのだが、辞書的な語義は、道筋、道標、指示、監督(映画やテレビでディレクターという人がADに振るう権限の行使)などなど、もっとシャープな方向性を示すらしい。つまり”no directon home”は、「明日はどっちだ」というような迷える子羊のような境遇というより、現実の生活で今日一日の暮らし方に困り、途方に暮れている状況を指すのだと思う。

 実際、「ライク・ア・ローリング・ストーン」の歌詞では、構成上、「宿無し」、「名無し」、「友無し」、「家路無し(ノー・ディレクション・ホーム)」と並んで使われており、大英帝国の「転石苔むさず」、むかしの日本語で「住所不定無職」と同じような意味で使われているように思える。

 でも、「転がる石のように」は比喩だ。ボブ・ディランのことだから、最後の最後にそれまでの悪口雑言を、”like a rolling stone”の一言でひっくり返しているおそれがある。モデルがいたとしても、相手の人格を全否定しているような歌詞でもないし、実在する特定個人に向かってのみ歌ったものとも思えない。全編、語りかけている相手は、一応、設定は女性だが「you」なのだ。


 1997年にケンヂは家屋を失った。幸い、その火災では家族や幼馴染みやご近所は無事だった。この「ご近所」に含めていいかどうかはともかく、彼が幸運だったのは、当人が渋谷でオッチョの道案内をしながら、謝辞を述べているように、ホームレスの人たちが助けてくれたことだ。万引きした弁当の借りにしては大きい。

 まだしも橋の下のほうが暮らしやすいと思うが(それでも、ケンヂが半そでの時季に、もう厚着をしている)、なぜか彼らは付き合って地下に潜った。おそらくは神様の思し召しであり、さすが元実業家の指導力と、夢が良く当たるという福引のような芸当の使い手とあって動員力があった。


 きっと一つには、カンナが気に入ったのだ。この子は大したもんだと言っていたもんな。映画では出陣の日、おじちゃんは必ず帰って来るとケンヂは言った。健気な三歳児は、おじちゃんの歌をみんな知っているから歌いながら待っていると答えている。
 
 ガーディアンに選ばれた神様は、「夢に見た。おまえは死なない」とケンヂに声をかけた。事情が事情だけに、それでもケンヂの表情は冴えない。でもこれはケンヂへの激励の言葉というより、カンナに向けたメッセージだろう。




(この稿おわり)






苔 (2016年5月3日撮影)




新緑の香り豊かな六義園 (同日撮影)








 夕暮れに仰ぎ見る 輝く青空
 日暮れてたどるは 我が家の細道
 狭いながらも 楽しい我が家

   「私の青空」 唄:榎本健一 (歌詞も歌手も、何となく似ている)





 Sweet home Alabama,
 where the skies are so blue.
 Sweet Home Alabama,
 Lord, I'm coming home to you.

    ”Sweet Home Alabama”  Lynyrd Skynyrd














































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