おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

海賊の歌  (第977回)

 手前ども生国と発しますは、氷雪と白夜、間欠泉の噴き出づる大地にてござんす。レッド・ツェッペリンの軽快なロックンロール・ナンバー「移民の歌」は、大意、かくのごとく始まる。初めて聴いたのはレコードを貸し借りしていた中高生のころか、それとも下宿のオンボロTVでプロレス中継を見ながら、ブルーザー・ブロディを応援していたころか。

 間欠泉はイェローストーンの公園にある有名な奴を見た。自動着火の打ち上げ花火みたいな代物で、私はそれより地面のあちこちの巣穴から顔をのぞかせてこちらを見ている地リスが可愛くて、見とれていたのを覚えている。あれがプレイリ―・ドッグだったのだろうか。


 後にレッド・ツェッペリンの代名詞のようになった「The hammmer of the Gods」が歌詞に登場する。「神々」と複数形であること、また、他の箇所に「ヴァルハラ」という一番偉い神様の宮殿名が出てくることから、バンドの念頭にあるのは北欧神話であり、極地の生国から船で西を目指すと言っているので、二本角の鉄兜でおなじみのヴァイキングを歌ったものだろう。雷神トールの武器はハンマーだ。

 同曲のイントロは、聴くたびに「ターザンだなー」と思う。若い方、ご存じですか、ターザン。一言で説明するのは難しいお人だが、密林に鍛え抜かれた無闇に強い男という意味において、オッチョと似ている。


 この作品ができ上がってから世に出るまでの経緯については、ロバート・プラントのインタビューの断片が、イギリス版のウィキペディアに載っていて面白い。時は1970年の夏というから、ちょうど大阪万博の真っただ中である。ZEPのツアー先は、まず氷の国アイスランド、その次がイギリスのバースだった。

 アイスランドでは首都レイキャビクでの公演を予定していたのだが、到着前日に公務員がストライキに入り、危うくステージは頓挫しそうになった。だが、大学が会場を用意してくれて、集まった「kids」の反応も冴えており(英語圏ではキッドもボーイも、愛着を込めて大人に対しても使います)、感激したらしいプラントがこのツアーにインスパイアされて作った曲だそうだ。歌詞の主題は戦争と平和である。


 その6日後、英国バースでの演奏はフェスティバルの一環で行なわれたらしい。前年のウッドストックと顔ぶれがかなり共通しているが、こちらは地元の英国人ならではということで、彼らとピンク・フロイドが同じステージに立ったとは知らなかった。最初に演ったのが「移民の歌」で、アイスランドのほんの数日後には、もう雪山讃歌を歌っている。

 バース(Bath)はその名のとおり、温泉が湧くところ。私は20年ほど前のイギリス旅行で、シェイクスピアの生家を見物中に、ストラッドフォード・アポン・エイボンの警察に駐車違反の切符を切られ(ちゃんと料金は払ったのだが、レシートをダッシュ・ボードの上に置き忘れただけなのに)、腹を立てて切符と現金だけ封筒に入れて送り飛ばし、その翌日だったかにバースに移動した。

 ローマ帝国時代の温泉施設が残っている。なるほど、テルマエ・ロマエの云うとおり、古来、大浴場を社交の場としたのはローマ市民と、顔の平たい蛮族(わしら)を措いて他に無い。確か雨が降っていたが、湯気が立っていました。なお、アイスランドも温泉が湧くそうで、氷雪の地でありながら地熱発電ができるらしい。さすがヴァイキングの末裔、環境適応能力ではダーウィンもびっくりだ。


 今日の移民の話題は、前回、テロリストと銃乱射に触れておきながら、語り損ねたからだが、いずれもこれまで私の人生に直接の影響がない。何だかんだと文句の多い毎日だが、人間の歴史の中では、ここまで便利で平和な物質文明と、百花繚乱の文化や娯楽に恵まれた時代と土地柄は珍しいほうだろうと思う。散々、貧乏生まれと書いてきたが、衣食住の欠乏で死にかけるほど困ったということはない。

 現在、中東と欧州で起きている騒動は、メディアによっては移民・難民といったり、単に移民と書いたりしている。されど命がけで地中海を渡っている人たちは、どうみたって難民そのものだ。アフリカ大陸の内戦や飢餓から逃げ出す人たちを難民と呼ぶのに、ロシアやアメリカが空爆しても移民なのかい。英語も両者は単語が違う。難民は被害者であるが、移民は事情もそれぞれで中性的な意味の言葉だろう。


 空港が良い例で、単なる通過地点の一泊だけでも、その国に入るにはイミグレーションを通過する必要がある。かつて、ある国で関税法を準備するプロジェクトに一時期、関わったので教えてもらったのだが、空港や国際港はあらゆる種類のヒト・モノ・カネが出入りするので、各官庁も総出のお出迎えということになる。

 例えば、ユキジは「ただの税関職員」と主張しており、これは税金を取るためなので財務省の縄張り。ときどき犬連れで仕事中の本物のお姿を、成田でも拝見する。入国管理は法務省で、航空管制は国土交通省。警察も郵便も忙しい。そして、基地の仲間が勝手に決めつけていたユキジの職業「麻薬Gメン」こと麻薬取締官の業務は、厚生労働省の所轄である。一応、薬と名が付く。


 漫画でも映画でも、ユキジの制服や帽子には「CUSTUMS」(税関)と書かれているし、麻薬探知犬ブルー・スリー号を連れているだけあって、制帽には「犬班」という縫込みもある。だから、税関職員だ。外見上は。でも、漫画にしか出て来ないが、ユキジの元上司は後に厚生労働大臣になっている。
 
 国家公務員が省庁間で出向するのは珍しくも何ともないので決めつける訳にはいかないが、そういう例に含まれていたのでなければ、ユキジは唯の税関職員ではなく、それは世を忍ぶ仮の姿であって、実は麻薬Gウーマンだったのかもしれない。映画でケンヂのいうとおり、「ヨシツネが正解」だったということになる。そのほうが、彼女のキャラクターにはお似合いだし。





(この稿おわり)






もうすぐ近所のコブシが咲く季節。
(2016年1月16日撮影)








 So now you'd better stop.
 And rebuild all your ruins.
 For peace and trust can win the day,
 despite of all you're losing.

    ”Immigrant Song”  Led Zeppelin






 嵐が吹けば 波が立ち
 波が立てば 船が沈む
 人のものは おいらのものさ 

       「山賊の歌」













































.