おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

富士山はいつの間にやら活火山  (第934回)

 少し日が経ってしまったが、かつて5月27日は海軍記念日だった。日付は日本海海戦に由来するのだが、興味が湧くのは敵将ネボガドフが降伏し相手の艦隊が実質的に壊滅したのは、翌28日のことである。誰も異存がないほどに初日で決着がついたらしい。

 この27日にレンタルで借りていたDVDで「Winds of God」の映画を観て、そのあと何故か気になって戦艦大和が沈んだ地点を調べてみた。大和の最期も神風と同じように特攻だから、何気なく連想したものだろう。それにしても、もう少し沖縄の近くまで行ったのだと不覚にも思い込んでいたのだが、まだ奄美大島の手前であった。さぞや無念だったろう。


 その翌朝に今井雅之さんの訃報を聞く。行動力の塊のようなお方であったが、そんなに急がなくても。合掌。モンちゃんも言っていたなあ。身体が元気だと病気のほうも元気らしいと。そして、ここ何年か不気味な鳴動を絶やすことのない日本列島は、29日に口永良部島が「爆発的噴火」。人死にが出なかったのは不幸中の幸いだが、島民のみなさんにおかれては大変な生活が始まる。

 この島は大きな地図でみると大和が眠っている場所から、そう遠くない。そして翌々日の5月31日、今度は国中を揺るがす地震があった。このところ関東はよく揺れるが、これは長かった。聞くところによると、前代未聞の深いところが揺れたらしいではないか。


 東日本大震災のあとでのこと。大まかに言って現代の日本史においては、高度経済成長の間、大規模な地震や台風の被害が不思議と少なく、経済の調子と合わせるかとように、その前後は災害が多い傾向にあるという記事を読んだ。確かに子供のころ、多くの犠牲者を出した台風や地震の話が少年誌にも載っていたのだが、その後しばらくは大人しかった。阪神・淡路以降、また増えているという実感がある。

 遠い昔、小学校では国際的に火山には三種類があり、すなわち活火山・休火山・死火山に分類されると習った。私の地元の霊峰、富士山は休火山とされていた。ところが世界中の学会も正直で、人類の歴史や科学のタイム・スケールにおいて、火山が休んだの死んだのと断ずるのはおこがましいということになり(推測)、活火山という呼称以外は廃止された。


 気象庁などのサイトによると、日本には現在、活火山が七十余りある。何時の間にやら、富士山も目覚めて活火山になっている。活火山の定義が、噴火記録のあるものも含むとなったので、仲間入りをしたというところまでは、すんなり理解できる。

 ところで、御嶽山の大災害ですっかり知名度が上がってしまった「噴火警戒レベル」は、何の動きもない活火山には数字が付いていないのだが、これを書いている現在、富士山は「警戒レベル1」の運用となっている。レベル1とは「活火山であることに留意」する必要があり、火口に立ち入ると「生命に危険が及ぶ」。怒らせると怖い。


 江戸時代の終わりごろの宝永年間に起きた富士山の、今のところ最後の噴火では、諸記録によると江戸の町に火山灰が何センチも積り、相模(神奈川県)の被害はもっと甚大であった由。富士の高嶺に降る雪と違って、火山灰は解けて流れりゃみな同じという訳にはいかない。

 今の東京に灰が積もりっぱなしとなったらどうなるだろうか。陸上の交通機関は当面、動かない。精密機械は細かい粉塵に至って弱いそうだから、IT機器も動かなくなるのが続出しそうな気がする。さぞかし静かになるだろうが、住んでいられない。関東平野の農業も厳しくなる。


 うちの田舎の静岡も、今ではどうか知らないが子供のころは、この宝永山の爆発で放り出された軽石が、県東部のほうに行くとゴロゴロ転がっているところが幾つもあった。ちょうど葛飾北斎の活動期と重なり、彼の北斎漫画にも想像図なのか写生なのか知らないが、噴火の突風で慌てふためく人たちの絵が残っている。

 ちなみに、静岡というところは日本一高い富士山と、日本一深い駿河湾に挟まれた地勢であり、駿河の地名もこの高低の落差から生じた傾斜を、幾筋かの河川が急流を為して駆け下る様子から名付けられたと伝えられる。

 フィリピンのピナツボ火山から車で2時間ぐらいの元農村に行ったことがある。大噴火から三年後ぐらいのころだ。除雪されたような感じの車道を除き、見渡す限り厚さ2メートルぐらいの火山灰が堆積したままになっていた。ここの暮らしも田畑も、ポンペイのように埋まったままになっている。すさまじい光景だった。


 2003年にキリコが山根のラボを訪れたとき、山根はその名字のごとく、山のふもとで悪魔の研究活動に没頭していた。私は二年くらい前だったか、この山を富士山と決めつけて小欄の話題にしているのだが、漫画のどこを見ても富士山とは書かれていない。でも、その必要は無い。この堂々たる山容、なだらかで長大な稜線、山根の蒙を開いた最高峰の勇姿。

 かつて、桜島といい三宅島といい、私が訪問したすぐあとに火山が大爆発したという忘れようのない経験がある。母島にも泊まったしなあ。そして、例えとしては品格に欠けるが、話題にした途端にその方が亡くなるという事態が何回もこのブログで起きており、まるでデス・ノートだなと思ったことがある。この目の黒いうちは、富士山が他を圧する例外となってくるよう祈るほかはない。





(この稿おわり)






五月晴れ。もう六月だ。
(2015年5月24日撮影)




 So I'm packing my bags for the Misty Mountains,
 where the spirits go now,
 over the hills where the spirits fly...

       ”Misty Mountain Hop”  Led Zeppelin

















  






















.