おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

悪の大魔王  (第926回)

 
 春が来た。季節の変わり目に弱いので、先週カゼを引き寝込んでいた間、久しぶりに漫画も含めて読書を楽しみました。そこで早速、感想文ですが、今回も何の結論も出ない単なる思案です。

 この漫画には「悪の大魔王」と呼ばれた者が二人、出てくる。いずれも言われた当人は不本意な様子であったが、一人目は第14集に出てくるヴァーチャル・アトラクション(VA)の中年の神様で、そう呼んだのはヨシツネ隊長だった。その罪状は、秘密基地があった原っぱから強引に俺達を追い出したからだ。神様に悪意は無かったと思うが、子供たちにとってはたまったものではない。時効なし。

 もう一人が終盤におけるケンヂで、悪の大魔王呼ばわりしたのは”ともだち”だった。天に向かって唾するとはこのことだが、ケンヂにも心当たりがあって歯切れが悪い状態が続く。なお、「大魔王」だけでも語感としては充分のようでもあるが、われわれの世代には前に述べたように、ハクション大魔王という道化のキャラクターがいるため、悪を冠しないと気合が入らない。


 二人とも同じ呼ばれ方をしたのは偶然か。作者のクセというものはあるもので、例えば本作でも最初のほうでクラス会に「コイズミ」がいたし、新コンビニ店長に「山根」さんがいた。「トモコ」もダブった。他方で例外もあり、第14集ではドンキーがフクベエを「悪の帝王」と呼んでいる。

 さて、この大魔王コンビには、ちょっとした共通点がある。秘密基地。神様と秘密基地の関わりは上記のとおり。後年、神様は知らず知らずにやったこととはいえ、原っぱから子供たちを追い出したせいで、子供の遊びが終わらなかった奴らが出たと自分を責めている(その割りにボウリング場は懲りなく再建しているのだが)。

 だが多分、神様が地上げをしなかったとしても、フクベエの後の行動に大きな違いは出るまい。すでにケンヂのマネをする決意は固まっていたみたいだし、転落に拍車をかけたスプーン曲げ番組のスキャンダルは、秘密基地とは直接、関係ないはずである。では、カツマタ君はどうか。


 彼も彼なりに秘密基地には何等かの執着があったらしい。そうでなければ、反陽子ばくだんのリモコンを隠す場所に秘密基地を選ぶことはあるまい。「21世紀少年」上巻に出てくる二人のナショナルキッドの会話はバッヂ事件の前であるから、ケンヂ一人だけへの反感があったとは考えづらい。

 そもそも、ロボットに「ひみつきち」を踏ませる絵を「しんよげんの書」に勝手に書き入れた(ただし、これは推測の域を出ない。VAでカンカラに入っていただけだ)動機が描かれていないので分からん。また、後にヨシツネ少年に気づかれてしまったが、本当に秘密基地に忍び込んだ模様である。

 1997年ごろの”ともだち”は、聴衆に向かって懐かし気に秘密基地や蛙帝国にまつわる話題を提供しており、基地そのものに恨みがあった気配はどこにもない。それなのに、なぜカツマタ君のほうは巨大ロボット「またアレ」号に踏ませるような手の込んだ装置を作ったのか。

 そもそも、それほどケンヂが憎いなら、彼と仲間が使っていた目玉のオッチョのマークを、いい年して終日、自分の顔面に貼り付けて楽しむとは何事であろうか。これは何らかの意思表示か。気付いてほしいことがあるのか。


 少し観点を変えてみる。1980年に(「第三の波」の発行年だな)、服部が万丈目を訪問した際、サークル活動企画の小道具として持参したお面は三種であった。神器みたい。それらは、忍者ハットリ君、ナショナルキッド、目玉覆面という全て知的財産権の侵害に当たる無断使用みたいであるが、それはともかく、お面が三種類あり、他方でチョーさんが「”ともだち”は複数?」と気付いて、手帳に図式化したのも三名の候補者を示す三角形であった。


 多少の例外や混乱はあるが、基本的に大人になってから使ったお面とその利用者の組み合わせは、ハットリ君の場合、「誰か僕に気づいてよ」作戦の一環としてフクベエが専門、ナショナルキッドはお面大王となったサダキヨが少年時代の主担当ということもあり元に戻って使っている。

 ここで一対一の対応という仮説を立てるなら、目玉のマスクはカツマタ君の専用であり(実際、後半の”ともだち”はずっとそうだ)、であるならばフクベエやサダキヨと同様、このマークに何か相応の経緯や思い入れがあるはずである。


 あの旗印もカツマタ君の名も、この長編漫画の冒頭に早速、出てくる。最初にオッチョが考え出したとき、あのマークは基地と同じく俺たち仲間だけのものであり、このマークを知っているのは本当の友達という前提であった。

 ところが、1970年の夏休みの終わり、初めてかどうか不明であるがヤン坊マー坊の襲撃に遭い、ドンキーが戦旗に用いたため、公開情報となった。しかし、隠れて見ていたなら別だが、フクベエもカツマタ君らしき他の少年も、俺達の旗揚げ式には立ち会っていない。

 その夏が終わり、原っぱの芒などが枯れたころ(日活映画のポスターには正月の上映とある)、少年たちは間もなく遊び場から締め出されるのを知った。これはドンキーの通夜の席上でモンちゃんが証言している。そして、ケンヂが言いだしっぺとなり、解散式があった。クラス会の日、フクベエは設立メンバーではなかったが、解散には間に合ったと語っている。嘘つきだが、とにかく式典があったことは知っている。


 あの解散式には11人いた。少なくとも9名の戦士以外の二人以上が参加しているのは間違いない。「以上」というのは、この時点で描かれていないのも仕方が無いのだけれど、オッチョとユキジの顔が見えないからだ。ではカツマタ君は、その場にいたのか? 居たならば旗がカンカラに詰め込まれたのを知っている。

 しかし、幽霊扱いにされたのはその後だろう。フナの解剖はユキジの記憶では6年生のときなのだ。基地の仲間の会話によれば、カツマタ君はその理科の実験の直前に死んだことになっている。もしも、そうだとしたら、9人とフクベエ・山根のほかの子で、ケンヂたちと付き合いがあった者として、解散式も含め漫画の少年時代のどこかに出てきてもおかしくない。あるいはクラス会か。


 少年時代の場面では、首吊り坂の肝だめしに名前の分からない少年が二人出てくる。ケンヂに声をかけられて冒険に応ずる程度の親しさはあったのだろう。でも二人ともフクベエ少年と、あまりに顔が違うので別の問題は残るが...。なお、解散式の参加者の一人は、そば屋の蛙の披露宴に出ていた元忍者舞台のキンちゃんかもしれない。彼もマークに見覚えがあった。

 かくして今回も、書いていれば何か名案が浮かぶかという儚い希望はかなわず、分からないことが分からないなりに、多少、整理されただけにとどまった。ついでだから、次回以降も、もう少し悩もうと思う。かつて「改めて考える」と書いて、問題をたくさん先送りにした罰が当たっている。今度はそういう宣言をしないようにしようと思う。





(この稿おわり)





ご近所さんの庭先も花盛り (2015年4月15日撮影)




  春の心が伝わるならば 早く返って来ておくれ
  春が訊いてたよ オレンジは好きかい?

            「オレンジ村から春へ」   リリィ
 











































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