おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

おまけ  (20世紀少年 第909回)

 
 感想文らしきものは前回で書き終えたのですが、若干、言い洩らしたなと感じたことを追記します。両方を観た方はご存じのように、この映画は劇場公開時の約2時間のヴァージョンと、その後に監督が大幅に追加延長した約3時間のヴァージョンがある。今回、私が観て書いたのは後者で、20数年前に観たのは前者だと思う(エレナと会話する場面の記憶がないので...)。

 確かこのブログのどこかで、DVD等で発売する際に改作する(ディレクターズ・カットなど)は、映画館に足を運んでお金を払った人に非礼であるなどと偉そうに書いておいて、このたびはこの有り様でございます。言い訳を許していただくならば、先週観た3時間版はテレビの有料チャンネルで録画したものなので選択肢がなかった。レンタルせよといわれると返す言葉がないが。


 映画「20世紀少年」もVol.3は、公開版と「もうひとつのエンディング」バージョンがある。だが、そういうのと比べ、1時間も長くなると言うのは普通のことではないだろう。監督には余ほどの事情があったに違いない。また、3時間もの長尺の改作をつくり得たのは、一つの背景として、誰もが映画を自宅で観られるようになったからでもあろう。

 昔の映画はたいてい2時間前後で、例外的に長かった「大脱走」や「十戒」や「風と共に去りぬ」は、途中で10分ぐらいの休憩があった。その間にトイレに行ったり、ポップコーンを買いにゆくのだが、言い換えれば、じっと座り続けて楽しめるのは2時間ぐらいが限界なのだろう。野球もこれくらいで終わると疲れは残らない。


 蛇足中の蛇足。漫画「20世紀少年」と時代設定において共通点があると書いたが、別の共通点を忘れておった。イタリア人の神父が出てくることである。ルチアーノ神父、懐かしいねえ。ちなみに、中世ヨーロッパの地方では、教会が村役場を兼ねていたというのを、何かの本で読んだことがある。

 例えば現代日本でいう住民台帳を造ったり、徴税したり、寺子屋と同様に教育に携わったりといった調子だったらしい。この映画にも、キリスト教をからかうようなセリフがたくさん出てくるが、それだけ庶民の生活に近かったことの証左でもある。だからこの古そうな村では、小学校の試験をしたり映画館を運営したりと教会が多才な活動をしていたのだろう。


 イタリア映画だとばかり思っていたのであるが、今回、恥ずかしながら初めてイタリアとフランスの共作であることに気づいた。どうりで最初に出てくる映画がフランスの「どん底」で、ジャン・ギャバンが登場するわけだ。最後のあたり車中で語り合うトトとエレナは、いずれもフランス人の俳優さんである。

 私はイタリア語もフランス語もできず、チャオとかノンとかいうレベルの知識しかないので断言できないが、作品中の外国映画は吹き替えになっているのではないだろうか。途中でジョン・ウェインの「駅馬車」が出てくるが、女が死を「モルト」と言っているように聴こえるので、そう思った。観客に字が読めない人が多いからだろう。


 さて、誰かに賛否両論あると聞き、映画紹介のサイトでこの作品によせられたコメントを読んだ。感動したか、感動しなかったかで、賛否が分かれているらしい。それはご自由にどうぞ。私は特に好きな前半など、ほとんど笑いっぱなしで観た。この映画は、人を泣かそうと作られたものとは思えない。そもそも私の世代の日本人の男は、感動しただけで容易に泣けないようにできてしまっている。

 感動云々はともかく、この映画を楽しめないというのは、もったいないと思うな。子犬のように走り回るトトに、周囲の大人は本気で怒っているが、それは彼がイタズラしたり怠けたりするからであって当然のこと。特に仕事の邪魔ばかりされて、アルフレードは真剣に叱っている。これが楽しい。


 ということもあって、私はトトの少年時代が一番好きなのだが、その時代の映画館名は「シネマ・パラダイス」であって、トトが児童福祉法違反ながら働き始めて以降が「ニュー・シネマ・パラダイス」である。監督は脚本も書いているので、後者が映画の題名になっているのは、彼の意志であることは間違いない。

 「ニュー・シネマ・パラダイス」になって以降、神父さんが口出しできなくなったため、上映作品も館内の雰囲気も成長したトトも、少なからず健全でお下品になっている。パルチザンにブーイングしていた古い時代も終わって、エレナが出てきてからはノスタルジー色が一掃されているのだが、監督はその時代の映画館名を作品のタイトルにしているのだ。どういう意図だろうか。


 エレナとの悲恋が主題であると受け取る方もいようか。それもまた一つの鑑賞であるし、1時間も伸びた主な場面がエレナとの関わりの部分らしいので、そう受け止めるのが普通なのかもしれない。それでも、私にはエレナとの出会いと別れさえ、サブ・テーマの一つであるように感じる。

 繰り返しになるけれども、私にとって本作の主役はアルフレードなのだ。それも、ニュー・シネマ・パラダイスにようこそと言って映写室の椅子に腰かけてから、駅のベンチで座りこむまでの視力を失ったアルフレードである。そう思う理由は、上手く書けそうもないので書かない。逃げよう。



(おまけ、おわり)




蘭  (2014年9月8日撮影)





 5×5=クリスマス
















 映画を観るならフランス映画さ 若かった君と僕の思い出話は
 君が手を振り切った二十歳のとき 埋もれ日の道に全ては消えうせた

     「ポップコーンをほおばって」   甲斐バンド


















































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