おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

位置関係 (20世紀少年 第885回)

 屋上で二人の生徒の大事な会話が始まる前に、他の人にはどうでも良いかもしれないサイド情報の整理を試みる。どうでも良いと書いたものの、少しは関連するかもしれないので記録します。最終場面で屋上にいた三名、すなわち大人と中学生のケンヂ、ナショナルキッドの位置関係などについてである。どうでも良いでしょ。

 屋上に出るドアを開けて「ここは、どこだ?」と訝っているケンヂは、ほぼ正面から陽の光を浴びている。昼休みの時間帯だから、このドアは外に出ると南に向かうように設置されているのだ。彼の影が正面から見てやや右後ろに伸びているのは、正午を過ぎて太陽が少し西側に傾きかけているからだろう。良く晴れた日だ。


 このため、ケンヂの後ろにあるドアのついた建屋は、向かって右の東側に短い陰ができている。この陰は後にも出てくる。続いて「中学校の屋上...」とつぶやきながら右上を眺めたときに、フェンスの上のナショナルキッドを見つけている。

 駆けつけようとしたケンヂや、フェンスを降りて立つナショナルキッドの影がほぼ後ろに落ちているのは、この少年がなぜか屋上に出てから右斜めに進み、軍事などの用語でいえば二時の方角、およそ西南西の方に向かったのだ。下のコンクリートの継ぎ目は、ロード・マップの経緯線と同様、東西南北で仕切られているだろう。

 私の経験の範囲では、特に照明が暗かった昔の学校は、日当たり(採光)を考えてクラスの窓は南向きで、反対の北側に廊下があった。つまり校舎は東西に長い。その上にある屋上も、いきおいケンヂから見て正面の南側はフェンスが近く、東西すなわち左右の方向に長く広がっているはずだ。


 先ほどユキジに捨てられたケンヂ少年は、同じドアから出て来た。「聴いてもいないか...」と嘆きながら歩く彼の影は左側に向かっているので、なぜか屋上に出てすぐに左折して東に歩いている。すなわち、ナショナルキッドとは反対側に進んだのだ。この時点で彼が意識して左向け左をする理由も元気もあったとも思えない。

 おそらく右方向に人の気配がしたので、今は一人で音楽に没入したいケンヂとしてはドア付近はもちろん、邪魔されないように先客にも背を向けて反対方向を目指したのだろう。この方角については、建屋の東側の日陰に身をひそめた大人のケンヂが、中学生の自分の背中を見送っているので間違いない。少年は腰を落とし、そのあと太陽の方向に頭を向けて寝転がった。


 しかし、お面の先客は次の来訪者に興味を持った。太陽の方向にいたナショナルキッドはまっすぐ近寄ってきたようで、彼の影は中学生のケンヂの方に向かって伸びている。当然、逆にお面は日陰になっている。したがって、二人の会話のシーンは隠れているケンヂおじちゃんにも良く見える位置で展開された。

 少し先に跳んで、192ページ上段左。ケンヂ少年に背を向けたナショナルキッドはドアを目指しているので、会いに来た時とは反対の西向きに歩いている。このため影が右側になっている。この絵はコマの右側がドアのあたりで切れているのだが、そのすぐ向かって右にサングラスのケンヂが先ほどからずっと立っているのだ。


 実際、下段でナショナルキッドが屋上から去ろうとした際、その場所からケンヂは姿を現している。いくらお面で視野が狭いとはいえ、大人が立っていて気付かないということがあろうか。ともあれ可能性としては、(1)傷心のあまり本当に気付かなかった、(2)目には留まったが誰だと声を掛ける元気もなかった、(3)誰だか知っていたが無視した。

 現実の世界なら(1)か(2)だろうが、ここでケンヂが「よお、おまえさ」と声を掛けたとき、ナショナルキッドは立ち止まっただけで、ケンヂの顔を見ようともしない。知らない大人から声を掛けられたのなら、そんな反応を示すとは考えにくい。(3)だろう。ケンヂが立っていると分かっているのだ。以前のノッペラボウと同じく、相手が誰なのか認識しているのだ。


 多分ここまで呼びつけて、一部始終を見せ付け、その反応を観たかったのだろう。なぜそんな手の込んだことをするかは次回に考てみるとして、ノッペラボウについては追記したいことがある。下巻の18ページから20ページにかけて、その描写があるのだが、ナショナルキッドのお面をかぶっているときは、ちゃんと髪の毛がある。

 ところが、お面を外した途端にツルツル坊主頭である。CGで瞬時に変わるようにできているらしい。コイズミのときはそうではなかった。これでは、屋上の仮面の下の顔がどうなっているのが見当の付けようもない。


 だが、人格はサダキヨではあるまい。第三小学校に第四中学校、いかにも地元の公立学校の名前だし、ヨシツネもユキジもマルオもケンヂと同じ中学なのだから、これも近所の学校のはずだ。サダキヨは遠い。お面の前科はフクベエにもあるが、このような穏やかな話し方はしない。この二人ではない誰かだ。

 なぜか屋上場面のナショナルキッドは長袖のシャツを着ている。ケンヂもユキジも第1集の冒頭に出てくる食事中の中学生たちも、みんな半袖だから暑い季節なのに。中学時代の描写が少ないのは惜しい。誰か一人、夏なのに長袖を着ていたら、それがカツマタ君なのだが。何も知らない中学生のケンヂは、陽の当たる場所で寝転んでいる。




(この稿おわり)




 



黄色い花が好きな私。岩手は釜石の菜の花。







 Some boys take a beautiful girl
 And hide her away from the rest of the world
 I want to be the one to walk in the sun

   ”Girls Just Want To Have Fun”  Cyndi Lauper



 可愛い娘を連れて地球の裏側に行くやつもいるが
 このあたしはお天道様の下を歩むのだ








































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